２３０：キャンドル ページ25
「ねぇ、この指輪って…？」
さっきは真っ暗で見えなくて、しかもゆっくり指輪を見てる余裕なんてなかった。
「あぁ。Aが眺めてた指輪。」
「え？じゃぁ？」
「そう。最初っから、Aの指輪を買う為に行ったんだ。」
「そう…だったんだ。」
「騙したみたいで悪かったな。」
指輪から翔くんに視線を向けると、運転中の翔くんは真っ直ぐ前を見てて。
「…ううん。」
きっと全部私の為にって考えてしてくれた事だろうから。
翔くんは返事はせずに、ただ私の右手を握り締めた。
部屋に戻り翔くんが鍵を開けて、私を先に中に入れてくれる。
…花の匂い…？
「A？暗いけど、ちょっとそのままでいい？」
そう言った翔くんが、私の手を引きソファのある方に歩き出す。
「ここ座って？」
コートを脱ぎソファに座る様に促させれる。
暗闇にも目が段々慣れてきて。
翔くんがポケットから取り出したライターで目の前のテーブルの上にあるキャンドルに火を灯す。
色々なキャンドルにひとつず火をつけた翔くんが、不意に立ち上がる。
私はアロマのいい香りがするキャンドルの暗闇にユラユラ揺れている小さな火を見つめていた。
部屋に入った時に感じた匂いって、これだったんだって思ってたら…
「A？」
いつの間にかソファの隣に立っていた翔くんが、アロマキャンドルの頼りない火に照らされた花束を私に差し出す。
「誕生日おめでとう。生まれてきてくれて、俺と出会ってくれて…こんな俺の嫁さんになる決心をしてくれて本当にありがとう。」
「…。」
無言でその花束に恐る恐る手を伸ばすと、私の手の上にゆっくり乗せてくれた。
「Aは赤が好きだから…ベタだけど赤いバラ。」
キャンドルの頼りない火だけに照らされている花束をギュッと抱きしめる。
「泣くなよ。」
『はは』って笑った翔くんが花束ごと優しく私を抱きしめる。
「これから毎年、ずっとずっと俺に誕生日祝わせて？」
頷く私の頭をゆっくり優しく撫でる。
「A？」
「ん？」
「愛してるよ。Aさえいてくれれば俺は他に何もいらない。それだけで俺は幸せ。」
もう…本当にズルい…
泣かせてばっかり。
泣かせるセリフばっかり。
「死ぬまで…俺が先に死んでも…俺に、俺だけが一生Aを愛せる資格を…権利を頂戴？」
何も言えなくて…
涙が翔くんのセーターを濡らした。
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作者名：しおなな
| 作成日時：2013年7月29日 22時
