２２８：満天の星空 ページ23
もう気まずい雰囲気でもないのに会話が無くて。
でも、翔くんがしっかり手を握り締めててくれて、それだけで十分だと思えた。
山の中を走る事３、４０分。
翔くんが車を停めた。
真っ暗で周りは何も見えなくて。
どこかの駐車場…？
「ねぇ…？俺…さ？」
車から降りる事もしないで、寒いからかエンジンもつけっぱなしで、ハンドルに右手を乗せて正面を向いたまま話し出す。
「うん？」
「１年前の正月休みに、アイツらとスキー行ったんだよ。」
「うん。」
「長野だったんだけどさ？すっげぇ星が綺麗で。Aにも見せたいってずっと思ってて。」
「そう。」
「まだ付き合ってもない時からそんな事ばっかり思ってた。」
今だに正面を向いたまま苦笑しながら話す翔くん。
「ふふ。そっか。」
「うん。Aとどこ行きたいとか、こんな事したいとか…今思うとかなり怪しいヤツだったな。」
『はは』って笑ったかと思ったら、チラッと視線をナビの方に向けてエンジンを切りドアを開けて外に出た。
「A？寒いけど、ちょっと降りようか？」
助手席側に回ってくれて、ドアを開けて手を差し出してくれる。
「うん。」
素直にその手を取り車を降りて、暗闇の中を手を繋ぎ歩く。
「ここに座って？」
ベンチを指差して私に座る様に促すと、翔くんも隣に座って握っている手をコートのポケットに入れてくれる。
「A、空見て？」
少しだけ視線を上げると、木々の向こうに見える満天の星空。
「綺麗…。」
「東京じゃ見れない空だな。」
冬のピンと張り詰めた空気が、余計に綺麗に見せてくれてるんだろうな。
東京では見れない星空を、大好きな人と眺める…
すごい贅沢だな。
「A？」
「うん？」
「３０歳の誕生日おめでとう。」
空を眺めたまま返事をしたら、いきなりそう言われてびっくり。
「え？」
「１２時回った。」
「そっか。時間忘れちゃうね？」
「見惚れてた？」
「うん。」
「気に入ってもらえてよかった。」
再び、星空に視線を向ける私の手をギュッとキツく握った翔くんが深呼吸を繰り返している。
きっと空気が美味しいからだろうなって。
私も真似してみると冷たい空気が鼻腔を通り抜ける。
「…A？」
「ん〜？」
「Aが３０歳になった今日、ずっと言いたかった事を言ってもいい？」
「ん？言いたかった事？」
顔を翔くんの方に向けると、翔くんも私の方を向いていて翔くんの真剣な目が私の目を捉えた。
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作者名：しおなな
| 作成日時：2013年7月29日 22時
