２２５：優しい手 ページ20
アイスを差し出す翔くん。
翔くんの優しさに胸がいっぱいになって勝手に涙が溢れる。
久しぶりに頭をポンポンしてくれる手は、翔くんの優しい手で何ひとつ変わってない。
そんな翔くんに自分から歩み寄らないとって思いながらアイスを食べる。
翔くんは優しい人だから、常に私の気持ちを優先してくれていて、私から歩み寄らないと何も変わらない。
けど、どうしたらいいかわからなくて…
こんな方法しか思い浮かばなかったけど、チラッと見た翔くんの横顔はもう寂しさ映ってなくて、これでよかったんだと思えた。
やっぱりたいした会話はなかったけど繋がれた手からは翔くんのぬくもりと、こんな私を受け止めてくれた優しさが伝わってきて、また目頭が熱くなったけど必死で我慢した。
翔くんの運転で着いた先は宣言通り伊豆で。
けど、伊豆は伊豆でも山の中。
車から降りると、周りは山に囲まれて冬の冷んやりとした空気だったけど東京の空気よりも何倍も澄んでいて美味しい。
冬至ともあって、既に薄暗くなった駐車場から翔くんの後をついて歩いていたら、正面を向いたまま歩いている翔くんが無言で手を差し出す。
私も無言でその手を取った。
チェックインを済まして、案内されたのは和モダンなお部屋。
「素敵なお部屋。」
「気に入ってくれた？」
頷く私に頭をポンポンして、ソファに座った翔くん。
部屋を一周り見て、翔くんの隣に座ると翔くんは地図を眺めてて。
「ここはさ？ちょっとしたリゾートみたいになってて。今日はもう暗いから、明日見て周ろうか？」
「うん。」
「夕飯まで、どうするか…。」
夕飯は１８時半で今はまだ１７時少し前。
「あ、お風呂…。」
大浴場もあるみたいだけど、部屋に半露天風呂もついていて。
「ん〜…ちょっとさ？夜中出かけたいから風呂はその後でもいい？」
「うん。」
「山の中で寒いし、湯冷めしたら風邪ひくし。」
この寒い中、夜中にどこ行くんだろって思ったけど、翔くんには翔くんの考えがあるんだろうと、あえて聞かなかった。
地図を眺めていると、
「A。」
不意に名前を呼ばれて、顔を上げると一瞬だけ唇に触れた翔くんの唇。
目を瞑る事もできなくて、瞬きを繰り返しているとゆっくり開く翔くんの瞼。
至近距離で目が合ってる為に翔くんのおっきな目には私だけしか映ってなくて。
暫く、そのまま見つめ合ってたけど…
勢いよく抱きしめられた。
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作者名：しおなな
| 作成日時：2013年7月29日 22時
