２２４：アイス ページ19
ニノにはああ言ったけど、あれからどうAに接していいかわからなくて。
こんな関係のままプロポーズして、本当にオッケーもらえるのかって不安になる。
けど、俺はもう迷わないって決めたし自分の気持ちはきっちり伝える。
俺が生涯一緒にいたいのはAなんだよ、って伝えたい。
コレを買う為だけに寄ったSA。
車に戻り、Aに差し出すとなぜかAは泣き出して。
「え？どうした？これじゃイヤだった？」
顔を手で覆い首を横に振る。
「ね？アイス食べてよ…ね？」
手を顔からゆっくり離したAが、涙の残る手を差し出すからその上に乗せてやる。
「…ありがと。」
小さな小さな声で言うAの頭をポンポンッてしてやり、シートベルトをして車を発進させた。
車内では、やっぱり会話なんてなくて。
何を話したらいいかわからなくて。
もう少しで静岡県って所で、
「…翔くん？」
遠慮がちに俺を呼ぶ小さな声がした。
あの日から、Aが俺の名前を呼ぶ事なんて数える位しかなくて、
「ん？」
何を言われるんだろって身構える俺。
「…あ、あの…。」
Aが言い淀むから、悪い方向に考えてしまって、更に緊張が走る。
「…何？どうした？」
緊張でカラカラの喉から出た声は掠れてて。
運転中でAの表情もわからない事が、俺の不安を煽る。
「…手。」
Aがボソっと言った声は小さくて、高速の雑音に消されて俺には届かない。
「ん？」
「…あ、あのね？」
「うん。」
「手を…。」
それだけ言ったAに無言で左手をハンドルから離して差し出す。
ゆっくり静かに重ねられたAの右手は、俺の手をキュッと優しく包む。
「ありがと。」
俺がそう言うと、
「ううん。ごめんなさい。」
って涙声。
その後、やっぱり会話はなかったけど、Aから歩み寄ってくれて、その事は俺を信じてくれてるって事と同じ事で、それだけで俺は嬉しかった。
会話は無くとも、この繋がれた手のぬくもりは嘘じゃないし、唯一、確かな事だと思えた。
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作者名：しおなな
| 作成日時：2013年7月29日 22時
