２２３：当たり前の幸せ ページ18
あれから翔くんとどう接していいかわからなくて距離を取ったまま…
こんな関係のまま本当に旅行なんて行くのか…。
今日も最低限の会話だけで、夕飯を済ませ片付けをしていたキッチンから、寝室に向かおうと振り返ると、真後ろに翔くんがいてぶつかってしまった。
「…ごめんなさい。」
俯いてそれだけ言って、翔くんの横を通り抜ける様とした時、パッと腕を掴まれる。
「明後日の出発は午後だから…準備だけはしといて。」
返事は頷くだけしかできなくて。
「何があっても絶対行くから。連れてくから。」
強い口調でそれだけ言うと腕を離してくれた。
逃げ込む様に入った寝室のベッドの淵に座りため息…。
ゆっくり立ち上がり、クローゼットを開いた。
・・・「じゃぁ…行こうか？」
重い雰囲気のまま、どことなく遠慮がちにそう言った翔くんが荷物を持ってくれて部屋を出た。
いつも繋いでた手は、空を切りブランとしているだけ。
それは車に乗っても同じ事で。
会話も無くて、私と翔くんの好きなアーティストの声が車内に響くだけ。
３０分位走って、
「今回も…伊豆なんだけど。」
って不意にボソッと翔くんが呟く様に言った。
「…うん。」
「とは言っても、今回は海じゃないんだけどね。」
「そっか。冬だしね？」
「…あぁ。」
それだけで会話は途切れる。
高速道路のSAに寄った翔くんが、
「降りる？」
って聞く。
「ううん。待ってるよ。」
私がそう答えると、寂しそうに笑い『そっか』とだけ言って車を降りた。
こんな重苦しい空気のまま、旅行を強行する翔くんの考える事がわからなくて…
もしかして、最後の思い出作りとか…？
なんて変な方向に勘ぐってしまう。
運転席とは反対側の窓の外を眺めて、可愛い犬を連れてる人や、楽しそうに歩く家族、幸せそうなカップルを見ていると、好きな人と旅行に行くはずなのにどこか惨めな自分。
翔くんに思われる事が、甘やかされてる事が当たり前だった…。
でもそれって、当たり前の幸せじゃないんだな、なんて今更思ったり。
翔くんの気持ちの上に胡座を掻いていた私に翔くんだけを一方的に責めるなんてできなくて。
こんなんじゃ、愛想尽かされても当然か…
ため息を吐いたと同時に車のドアが開く。
「A。」
遠慮がちに呼ばれた名前。
「ん？」
返事をして翔くんの方を向くと、やっぱり寂しそうに笑って私が好きだと言ったアイスを差し出した。
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作者名：しおなな
| 作成日時：2013年7月29日 22時
