２２２：噂 〜S〜 ページ17
「またケンカっすか？お宅らもイチャついたりケンカしたり、忙しい事で。」
喫煙所でニノに嫌味混じりに突っ込まれる。
「んだよ。ケンカなんてしてねぇよ。」
「社内で噂になってますよ？『別れた』って。」
「何でそんな噂が立つんだよ！」
場所も考えず思わず声を荒げる。
「ニノちゃんに怒んないで下さいよ。てかね？あなた達カップルは有名なのよ？毎日毎日お手手繋いで出勤してたカップルが別々に出勤してればねぇ。」
そう言って顔を背けて紫煙を吐き出す。
「翔さん？このままだとマジで掻っ攫われるよ？」
「わかってるよ。」
「もうさ？そんな色々考えないで、さっさと言っちゃえば？」
「けど！ここまで待ったんだ。あと１週間…。」
「その１週間で…たった１日で取り返しのつかない事になったらどうすんの？」
ニノに正論で責める様に言われて何も言い返す事ができない。
Aに嘘がバレて１週間…
出勤も帰宅も寝るのも別。
生活上の必要最低限の会話しかしてない。
きっとニノは噂の流れる前から気付いてたんだろうけど、あえて触れてこなかったんだろう。
で、見るに見兼ねてって感じか…？
「翔さんの、『結婚したい』って気持ちが一番大事なんじゃないの？」
「…そうだけど。」
「『だけど』何よ？」
「俺はAを信じてる。」
「はぁ？」
本当に理解できてないのか、それとも本当に俺をバカにしてんのか…
気の抜けた様な『何言ってんだコイツ』って感じで、そう言って俺を見る。
「だから、Aは俺を信じてくれてるって信じてる。」
「どっからくんのよ？その自信。」
今度は本当に呆れた様に言ったニノ。
「どこからでもねぇよ。」
「はぁ？」
「ただな、お前も見てきた通りに俺とAは色々あって。何回も別れる寸前まで行って。」
「はい。」
「けど、こうしていれるって特別な何かがあるって信じてるし、その危機っての？乗り越えて来たからこその絆は強いって信じてる。」
キッパリ言い切った俺を、『フッ』って笑ってタバコ揉み消しまた咥えた。
「返品不可ですしね？」
「あぁ。あんなに甘えたな女の子にした責任はきっちり取るよ。」
「まぁ、翔さん以外は扱い切れないっていうか…無理でしょうね？」
「だろ？きっとAもそう思ってるよ。」
タバコを灰皿に押し付けた俺の背中をポンポンッてして、満足気に片方の口角だけクイっと上げて笑った。
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作者名：しおなな
| 作成日時：2013年7月29日 22時
