２２１：疑心暗鬼 ページ16
美香ちゃんといつものランチ中に言われた、
「○○の花屋さんから櫻井さん出て来た所みましたよ？何か記念日とかでした？」
の一言。
「美香ちゃん？それいつ？」
「え？一昨日ですが？」
何かマズかったのかと慌てる美香ちゃん。
「ふふふ。大丈夫よ？そう、記念日に素敵な花束もらったの。」
無理やり作った、今できる精一杯の笑顔でそう言ったら安心した様に微笑んで、
「櫻井さんて、そういうの似合いますね？」
って言った。
それには返事はせずに笑顔だけ返した。
ずっと胸につかえてたモヤモヤした気持ちが、真っ黒い思いに変わって、信じてた翔くんへの思いは疑心暗鬼になる。
嘘をつかれた今、信じる事なんて到底できなくて…
かと言って、この家を出て行っても行くあてなんでどこにもない。
寝室のドアが静かに開く音がして、足音が段々近づく。
その足音を立てる張本人がイルカを抱き布団を被る私をポンポンッてする。
「A？ねぇ？A？起きてるんでしょ？」
「…。」
話したくない。
今、口を開けば酷い事を言ってしまいそうで。
嫉妬や絶望…
負の感情に苛まれている醜い私を見て欲しくなくて。
「ねぇ？今は何も言えないけど…これだけはわかって。」
「…。」
「俺はAを愛してるよ？Aとずっとずっと一緒にいたいし、俺はAを手放すなんて絶対しないよ？」
「…。」
「俺を信じて。」
それだけ静かに言うと、やっぱり私をポンポンッてして寝室を出て行った。
翔くんが出て行ったのはわかってるのに、布団から少し顔を出して周りを見渡す。
自分から、『話したくない』って言って寝室に逃げ込んだのに、このベッドにひとりでいるのが寂しくて。
でも、変に意地を張って自分から翔くんに歩み寄る事なんてできないんだ。
静かに涙を流してたら、いつの間にか眠ってしまっていた…。
夜中に翔くんがベッドの淵に座り、私の寝顔を泣きそうな、苦しそうな顔で見つめてたとは知らずに…。
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作者名：しおなな
| 作成日時：2013年7月29日 22時
