２２０：誤魔化し 〜S〜 ページ15
イブまで１ヶ月を切って１２月に入った。
Aに内緒で準備するのは本当に大変で。
ジムに行くフリをして、ネットカフェに行ったり、指輪を取りに行ったり…。
営業でもない俺が、平日の昼間社外へ出る機会も無くて、悪阻がわりと早くに治まった樹里さんに大野くん経由で書類をもらって来てもらって。
失敗したらと、ご丁寧に５枚も…。
別にプロポーズしてからでも、この書類はよかったんだけど、これを目の当たりにすると気が引き締まるというか…
より結婚が現実的になるというか。
準備をする事で頭がいっぱいな俺は、最近Aの様子がおかしい事も気付かずに…。
ニノが俺の気持ちが一番大事って言ってたのに、周りが見えなくなってたバカな俺。
「ねぇ、翔くん？」
「ん〜？」
Aの膝に寝転びながらテレビを見ていたら、少し沈んだ声のAに呼ばれて。
「……。やっぱりいいや。」
「どうした？」
膝から起き上がると、泣きそうな目のAと目が合う。
「ううん…いい。」
俺からパッと視線をずらすから、Aの頬に手を添えてこちらに向かせる。
「よくねぇだろ？そんな泣きそうな顔しといて。言いたい事は言うって約束だろ？」
「…本当にいいの。気のせいよ。」
「A。」
「…。」
「A。いいから言え。」
俺が低い声で言えばそれは命令に変わる。
「…翔くん、最近どこで何してるの？」
俯いてボソボソ言う。
「え？」
「この間、『ジム行く』って言った日…美香ちゃんが見たって…。」
え？マジで？
やっべぇな…
どうすっか…
どう誤魔化すか…。
「えっと…どこで？」
「翔くんのジムとは全然違う方向の花屋さんから出て来たって…。」
あぁ〜…あそこか。
「は、母親のな？誕生日でさ？頼んできたんだ。あそこ…麗子…って覚えてる？」
「…うん。」
「あいつの店でさ？」
よし！完璧！！
って思ったのに…
Aの目には涙がいっぱいで。
「え？どうした？何で泣くの？」
完璧だと思った言い訳は、Aを余計に泣かすだけで。
「翔くんは、どんな理由があっても元カノの所に嘘をついて行くのがいい事だと思ってるの？」
「…。」
「私が潤と偶然会っただけで、自分はすっごい怒っといてそれはないんじゃない？」
涙がいっぱいのAの目は、悲しみと怒りが宿っていて。
「暫く翔くんとは話したくない。」
とだけ静かに言って寝室に入って行った。
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作者名：しおなな
| 作成日時：2013年7月29日 22時
