１２８：不機嫌 〜S〜 ページ3
「翔くん？」
「ん？」
「私、聞いてない。」
帰りの車の中で、家を出て暫く黙ってたAが不機嫌にそう言った。
「イヤだった？」
「イヤ…じゃない。イヤじゃないけど。」
「俺さ、多分ね？もう俺んちからAを帰せないと思ってさ。」
「…ん。」
「ご両親にも雅紀くんにも言ったけど、俺にはそのつもりあるしさ？だからこそ、内緒で同棲なんてすべきじゃないって思ってね。ケジメつけさせてもらいました。」
「ん。」
まだ納得してない様な声で返事をするA。
「先に聞いときたかった？」
「うん。」
「はは、そっか。んでも、プロポーズはちゃんとAに先にするから許して？」
「…ん。」
声でわかる。
俺も大分Aの事がわかる様になった。
でも、もっともっと知りたいんだ。
「泣き虫。」
「翔くんの所為だもん。」
「ごめんね？」
「全然悪いと思ってないでしょ？」
「はは。バレた？」
右手が少し不自由な所為で握る事のできない左手を信号待ちで離して頭をポンポンする。
「翔くん？ずっと気になってたんだけど、その右手って…。」
「ん？シャワー浴びたらさ、鏡にすっげぇ情けない男が写ってたから殴ってやったの。」
「え？！」
「鏡直すのにいくらかかんだろ？」
そこまで考えてなかったわ。
「いっその事引越しする？もう少し広い所に。」
「ううん。いいよ。二人だけだしさ。」
「そっか。」
「うん。」
・・・マンションに着き、玄関を開けてそこにある靴の数で思い出す。
「あぁ、そうだった。」
てかマジで待ってたのかよ…。
「ん？」
「この靴の数見て大体想像つくでしょ？」
俺がそう言うと、視線を下にずらしてハッとしたAが俺を見上げる。
「うん。そういう事。」
Aの手を引きリビングに向かう。
でも、やけに静かだな。
リビングに入ると雑魚寝している４人の姿。
テーブルの上には１ケース分はあると思われるビールの空き缶とタバコの吸殻の山。
閉め切ってあるからすっげぇタバコ臭い。
俺はAと付き合い始めてから、ベランダで吸う様にしてるから異様に臭く感じる。
「A？ここにいると病気なりそうだから、あっちに行こう。」
もう時間も時間だし。
「あ、お布団かけてあげないと。」
「コイツらにそんなもんは必要ないよ。」
人の家で好き勝手しやがって。
「翔くん？先にプリンしまって来るね？」
「うん。そしたらあっちね？」
寝室を指差した。
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作者名：しおなな
| 作成日時：2013年6月21日 14時
