１３９：夏休み１ ページ14
「A？準備はいい？忘れ物ない？」
「うん。」
「んじゃ、出発。」
会社が昨日から夏休みに入った。
翔くんと約束していた旅行に出かける為に、翔くんが車を発進させる。
私はまだ行き先を知らなくて。
「ねぇ？翔くん？そろそろ教えて？」
「ん〜？どうしよ。」
笑いながら言う翔くんを恨めしく思ったり。
「もう！意地悪！」
「はは。ごめんごめん。」
全然悪いと思ってない翔くんにムッとして、私の右を握ろうとするから咄嗟に避ける。
「Aちゃん？そんな可愛いくない事しちゃうんだ？」
「だって！翔くんが意地悪してからかってばっかり！」
「わかった、わかった。俺が悪かったです。」
「何それ！その投げやりな感じ。」
更にムッとしてプイと窓の外を見る。
「ねぇ？…A？」
「…。」
何も言わない私にため息の翔くん。
都会の景色が流れる様に私の視界を通り過ぎて、そのまま暫く走って高速道路に入る。
その間も私と翔くんの間には会話が無くて、車内にはステレオから聞こえる、あのアーティストの曲だけが響く。
こんな風に喧嘩したかったわけじゃないのに…
せっかくの初めての旅行なのに…。
高速道路に入った事で、窓の外は同じ様な景色ばっかり。
SAに車を停めた翔くんが何も言わずに車を降りた。
車もあるしそんな事はないってわかってるのに、置いてきぼりにされて、もう翔くんが戻って来ない様な気になる。
途端に寂しくなって、些細な事でいじけた子供っぽい自分を後悔すると同時に涙が溢れる。
久しぶりのお出かけで、メイク頑張ったのにな…
台無しだ…。
メイクだけじゃなくて全部台無し。
靴を脱ぎ膝を抱えて顔を埋める。
ドアの開く音がして、『A？』って翔くんの声？
ゆっくり顔を上げて、そっちを向くと目の前にアイスが差し出される。
「何で泣いてんの？！ね？これで機嫌直して？プリンは無かったからアイスだけど…。」
眉を下げて困った様に笑う翔くん。
そんな翔くんを見て、更に涙が溢れる。
「あぁ〜もぉ〜！泣かないで？ね？もう、意地悪しないから。」
「…翔くん？」
「ん？」
涙を指で拭ってくれる翔くんは、まだ困った顔をしてて。
「ごめんなさい。」
「ん？俺の方こそごめんね？ご機嫌直してくれる？」
「ちゅぅしてくれたら直る。」
「はは、そっか。んじゃ。」
チュッて軽くキスをくれる。
「直った？」
「うん。」
そう言うと優しく微笑んでくれた。
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作者名：しおなな
| 作成日時：2013年6月21日 14時
