１２７：世間体 ページ2
「お父さん！折角挨拶してくれてるのに！」
そう言ってお父さんから新聞を取り上げたお母さん。
新聞がなくなった事で、顔を隠す物が無くなったお父さんは気まずそうに視線をずらす。
そんなお父さん呆れた眼差しで見るお母さんがため息をつく。
「あ、それで…僕としましては将来も視野に入れて真剣にお付き合いをしているつもりです。」
え？
「なので、一緒に住む事を許可しては頂けないでしょうか？」
「えぇ？！」
翔くんそんな事一言も私には言ってない。
「今日みたいなタイミングでお願いすべき事じゃないって事は重々承知ですが…雅紀くんにも言いましたが、Aさんのこれからの全部に責任を持つ覚悟をしてお願いをしています。」
頭を深々下げる翔くんを、まるで他人事の様にさっきと同様でボーッと見つめる。
「じゃぁ、何で結婚しないんだね？世間体を考えれば籍を入れてきちんとした方がいい。」
翔くんの目を真っ直ぐに見てお父さんが言った。
「おっしゃる事はよくわかります。けれど、もっとお互いを知ってからでも遅くはないと思ってますし、結婚してからでは味わえない時間をもう少し二人で過ごしたいんです。」
「そんなに甘くはない。」
お父さんの言葉に頭を上げて、真剣な目でお父さんの目を見る翔くんの横顔はすごくカッコよくて。
「はい。わかってます。近い将来必ず再度ご挨拶に伺う事をお約束しますので…お願いします！」
そう言って頭を下げる翔くんを瞬きもしないでジッと見つめたお父さんがため息を吐いた。
「…ひとつ目、順番は守る事。」
お父さんのため息混じりの低い声が聞こえる。
「二つ目、Aを泣かせる様な事はしない事。三つ目…俺はそんなに気は長くはないぞ？」
「はい。ありがとうございます。」
頭を下げたまま聞いていた翔くんが大きな声でそう言った。
私は二人のやり取りを呆然と見ているだけだったけど、涙が頬を伝ってるのだけは感じる。
「櫻井さん？頭上げて下さい。食べましょう。」
お母さんがそう言って翔くんが顔を上げて私を見た。
『フッ』って軽く笑って、しょうがないなぁって顔をする。
「Aも、顔洗ってらっしゃい。」
「うん。」
席を立ち、洗面所に向かう私の背後に、
「それにしても、櫻井さんてカッコいいわよね〜。」
なんて呑気なお母さんの声が聞こえた。
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作者名：しおなな
| 作成日時：2013年6月21日 14時
