einsatz ページ4
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少しだけ調子外れなチャイムが響き渡ると、
校内は一斉に騒がしくなる。
鞄と楽器ケースを掴んで、私は一つ溜息をついた。
昇降口へと向かう生徒の波に逆らって歩く。
少し歩くと、生徒は殆ど居ない廊下へ出た。
静寂の中に、茜色が差し込む。
三階の一番端にある、音楽室。
その前に立って、私は深呼吸をした。
重たそうな茶色い扉は、ノックしても中には届かなそうだ。
少しだけ錆びた、金色の太いドアノブに手をかけた。
体重をかけてぐっと引っ張ると、
隙間から西陽が差し込み、その眩しさに私は思わず目を閉じる。
目を開けて、ドアから顔を覗かせると、
窓際に置かれた棚の前に人が立っていた。
逆光で顔はよくわからないけど、
すらっとした背丈に、男の人にしては長い髪の毛のシルエット。
彼は手に持っていた何かをぱたっと閉じて、
びっしりと何かが敷き詰められた棚の欠けている所に、
それを戻した。
「小湊さん、やな?」
「はい」
彼は私の所へ歩いてくる。
「中間です、音楽の。
って、知っとるよな」
目の前に立って、茶色の髪を耳にかけると、
彼はそう言ってふっと微笑んだ。
ちらりとさっきの棚に目をやると、そこに入っていたのは全て、オーケストラスコアだった。
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作者名:みなみ | 作成日時:2019年5月3日 11時