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先生の躊躇いが、手に取るように分かった。
先生は物事ははっきり話すタイプだけど、
何処か掴みどころがなくて、
本心が見えないタイプだと思っていたから。
だからこんな風に分かりやすく戸惑っている先生を見て、
私の心も波打った。
沈黙に耐えかねて、やっぱりいいです、と、
口に出そうとした瞬間に。
ええよ、と言って先生は立ち上がった。
音楽室の奥の棚から、トランペットのケースを持ってくる先生。
布地のケースはうっすらと埃を被っているように見えて、
音楽を愛する先生が自分の楽器にしばらく触れていないことに、
違和感を感じた。
マウスピースと楽器が合わさる金属音が響いて、
息を楽器に通す音が聞こえる。
何度かピストンを押した後、先生がブレスをした。
ブレスだけで、分かる。
その人が、どの程度吹けるのか。
先生は、きっと。
私は知らず知らずの内に、息を止めた。
耳に聞こえてくる音、全部が、
目の前で吹いているはずなのに、
広いホールの中で遠くから響いてくるみたいに、柔らかく豊かで。
決して弦楽器や木管楽器を邪魔しない柔らかさなのに、
金管らしい煌めきも持ち合わせている。
その細く長い指は簡単にピストンを操って、
寸分の濁りもなく運指と息がぴったり揃っている。
正直、笹山先生と大差ないのでは、と思ってしまうくらいには、
洗練された音だった。
先生が演奏したのは、
オーケストラのオーディションでも必ず課題に上がるような、
古典の有名なパッセージ。
このフレーズを、
ウォーミングアップもなしに選んでいきなり演奏する所に、
先生の、音楽家としての確かな自信とプライドを感じた。
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作者名：みなみ | 作成日時：2019年5月3日 11時
