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「お、お願いします…」
お願いしてるのはこっちなんだけどな、と笑みが少しこぼれる。
目を閉じて待つ康二くんにそっと近づいていく。
唇が触れるその瞬間、私も目を閉じた。
柔らかい感触に触れて、そのまま数秒。
上書き、とか、消毒、とか。
そんな簡単なものじゃなくて、康二くんに触れれば、何か変わる気がした。
ゆっくりと離れる唇とは裏腹に、ぶつかり合う視線。
「もう一回。」
求められるがまま、それを受け入れていく。
抱き寄せられた体は、その腕へと収まっていく。
「すき、だいすき、何があっても俺が守るから。」
そう言った彼に見送られて、来た道を辿るみたいに家へと戻る。
ふと、唇を指でなぞる。
きちんと康二くんの感触を思い出すのに、なんで。
『なんで、消えないの。』
目黒の感触も、こびりついたまま消えなかった。
．
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作者名：平野 頼凛
| 作成日時：2019年9月21日 13時
