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重い瞼をゆっくりと持ち上げると、隣には冷えた温度があるだけだった。
軋む節々を伸ばしつつ起き上がれば、細く開けられた掃き出し窓の隙間から吹く風がカーテンを揺らしているのが目に入る。ついでに流れ込んでくる紫煙の匂いは相変わらず舌を出したくなるほど不味かった。
「また吸ってるの」
「ん?ああ、起きたのかい。そうだよ。情事のあとくらいは余韻を楽しみたくて、一服したくなる」
「柄にもない」
「本当にね」
ふーっと吐いた煙が朝焼けの空に溶けて消えていく。この時間はあまり好きではない。意識ははっきりとしているのに、目は冴えているのに、私が私で居られないような気がするからだ。
人一人分間隔を開けて、狭いベランダに並ぶ。大した興味もなさそうにひっそりと息をする目下の街を眺めていた彼が、ふと、こちらへと視線を寄越した。眉間に少しばかりの皺が寄る。珍しく感情に引きずられた表情をしていた。
「そんな薄着で外に出て。はしたないよ」
「別に、時間帯は選んでるんだからいいでしょ。シャツも羽織ってる」
上下ともに下着一枚のまま出てきたところで、こんな時間に目にする輩など居ない。この申し訳程度の白いシャツだって、こんな黒い下着相手では無意味に揺られるだけだと知っている。それでも肩にかけているのは、男の言葉を尊重するわけでもなく、ただ、明るい場所で背中を見せたくない一心だった。
昨夜何度も私に触れては暴いた指がするりと布地の下から滑り込んで、まるで慰めるように肩甲骨にある煙草を潰した痕を一撫でする。反応することもなく地面にできた水たまりを見つめる私に焦れたように口を開いた。
「やけにしおらしいね。また、傷の上書きでもしてあげようか」
中指と人差し指の間に挟まれた毒が、灰を落とす。
「いらない」
言い切った私に肩を竦めて前へ向き直った横顔を一瞬見やって、すぐに顔を逸らした。
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雨雲り(プロフ) - とても好きです。占ツクでここまで引き込まれる作品に出会えたのは本当に久しぶりに感じます。作者さんの事情もあると思いますが、更新楽しみに待ってます。 (2021年8月31日 4時) (レス) id: e92c8698d4 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:仮名子 | 作成日時:2021年8月14日 19時