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「Aへーき??水飲む??」
くだらないことで落ち込む私を心配そうな顔で覗き込む坂田。
いや気にかけてくれるのは嬉しいしそういう優しいところ好きだけど!
「人の心配の前に自分の心配して!?」
「水取ってきたる!」
私の声は届いているのかいないのか。
意気揚々と立ち上がった彼はそのままぐらりと横に傾き、ドン!と激しい音を立てながら勢いよく膝をついた。
「えっ坂田!!?大丈夫!?」
「うあ〜くらくらする〜〜ふふ、やばぁ」
倒れかけても尚にこにこと笑い続ける坂田を見て流石にこれはまずいと、心にストッパーをかける。
(これ以上はさすがにだめだ……)
「ね、坂田。もうやめよ?」
フローリングにぺたりと女の子座りをする彼と目線を合わせ、そう言い聞かせる。
私が言葉をかけた次の瞬間、坂田は先程までの笑顔から一転、眉を下げて悲しそうに私を見上げた。
「え……もうだめなん?」
「うんだめ」
「どーしても?」
「うん」
全てアルコールのせいなのか。
いつもより何倍もあざとく、上目遣いをしながらそんなことを言ってくる。かわいい。いや負けちゃだめだ。坂田のため坂田のため……。
「じゃあA、帰っちゃうん……?寂しい……」
大きな瞳には今にも零れ出してしまうんじゃないかと思うくらい涙が溜まっていて、そのまま私に熱い視線を向ける。
とす
と何かが心に突き刺さったような気がした。
(なにこれ、なにこれ)
きゅ、と口を結んだまま少し俯き、私の手を強く握る。
少し掠れて、小さい子どもが何かをねだる時のように言うその声が本当に、本当に
(かわいすぎる……)
きっと今頃私の顔は真っ赤っかに染まり上がっていることだろう。
「だって俺、Aのことこんなに好きやのに」
「……え?」
坂田はそのままの口調で泣きそうになりながらそんな事を言い、暖かいその手を私の後頭部へとまわしてぎゅうと力強く抱き締めた。
「もう行っちゃうとか嫌やぁ〜〜〜」
好きだと言われ、抱き締められ、帰るのが嫌だと耳元で懇願され。
いろんなことが一斉に起きて頭の中は無事大混乱中だ。心臓の音もドクンドクンとうるさく、こちらも大分混乱しているらしい。
未だ腕に強く力を込めている坂田は私の耳元へそっと口を近づけた。
「お願い、帰らんといて。今日は一緒に寝よ……?」
「寝ます」
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作者名:初谷 | 作成日時:2019年7月17日 16時