車椅子 ✽ 愛乃 ページ6
*
サッカー部の部室……そう、拓君の歩いていった方向にかけて行く天馬君を横目に、こはくの質問を受ける。
そうそう、さっきは遮られちゃったけど、あだ名ね。
こはくがあだ名で呼んでくれるならおれもあだ名で返そうと思ってて。
でもおれにはあだ名なんてつけるセンスがないから、とりあえず呼び捨てで落ち着いたというわけだ。
まぁそんなことよりも気になるのが、こはくの視線だ。
なんだか、やけにこいつを見ているような気がして………なんて思っていると、先程車椅子の下から聞こえた声がフラッシュバックする。
そういえば、さっき聞かれたっけ。
「んとな、これ車椅子って言って。自分の力で歩けない人とか、足が使えない人がこれに乗って移動するんだぞ」
なんの前触れもなく説明したものだから、慌てて「気になってそうだったから」と付け足しておいた。
さっきのあの質問からして、車椅子自体を知らなさそうな雰囲気を感じ取れる。
ひっくり返った時は頭がごっちゃごちゃだった為、確証はもてないけども。
んー、でも冷やかし……というわけではなさそう。なんだかこはくの行動には確信が持てる。
正直者って、言うのかな。
とっても素敵な性格だと思う。
「へぇ〜くるまいす！覚えたよ！どうやって動かすのー？」
うん、やっぱりこはくは正直者だ。
「自分で動かす時は、こうやって車輪を回して。動かしてもらう時にはここの黒い持ち手を押し…て……」
と、説明した瞬間に、こはくはぎゅっと車椅子の持ち手を握りしめた。
すごく、力強く。
………………なんだか、嫌な予感がする。
ごくんと唾を飲む音がこはくの耳に届く訳もなく、キラキラと目を輝かせたこはくだけが俺の瞳にちらりと映った。
「よし、じゃあ行こうよ！」
……あー……そうだ、そうだよ。
さっき行くまでが大変って断りを入れたんだおれ。
そうだね、こはくに押してもらえば全然大変じゃないもんね。
後でって言ってたから、もしかしたら色んなところに向かうのかもしれないけど……
なんて考えてる暇もなかった。
いつの間にか車輪は高速で回転しており、川の流れるように景色がぎゅんぎゅんと新しい道を切り開いていく。
軽く、軽くだろうけど、おれにとってはかなり早い
走ってるぞこの子。
サッカーの時間 ໒꒱ 天利→←あだ名はりーちゃん ໒꒱ 天利
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