40話 ページ40
先輩からもらった大切なお守り。
震える腕をなんとか動かして手を伸ばす。
「はいstop」
あともうちょっとってところで無情にも止められて。
「ちゃんと見てろよ？」
何を？って聞こうとしたところで誰かがリストバンドを持ち上げる。
頑張って見上げるとその人はもう片方の手にライターを持っていて。
「……！い、やだ…やだ、お願いだからそれだけは…！」
「いいねぇその顔」
「返して、返してください…！うぅ…お願いだからやめて……」
「はい5秒前〜。4、3、2、1、0！」
0、の声と共に俺の大切なリストバンドにボッと火がついた。
綺麗な青が焼け焦げて黒っぽく薄汚れていく。
「あ、ぁ…あぁ……っあ……」
「ほら、返してやんよ」
まだ火が燻ってる状態のまま俺の手に落とされたそれをそっと手の中に包み込んだ。
不思議と熱いとか火で焼けて痛いとかは思わなくて。
俺の手の中でなお黒くなっていくそれを見て涙腺が決壊したのか涙が止まらない。
ごめんなさい、先輩。
せっかくくれたのに、ごめん。
火がようやく消えて真っ黒になったリストバンドが原型を留めていられるのはきっと俺の汗や涙が染み込んでるから。
だけど、もし少しでも強く触れてしまったら……
「なあ山田クン、それ引っ張ってみなよ」
「え……」
「早くしろよ」
嫌だ、これは俺の大事なものなのに…！
なのに、どうして俺の体は動くの？
本当に嫌なんだよ、やりたくないんだよ。
自分の体のくせになんで俺の意志を尊重してくれないんだよ…！
ほんのちょっとだけの弱い力でリストバンドを引っ張る。
そしたらただでさえボロボロなそれはいとも簡単に崩れていった。
この、俺自身の手によって。
「う……ぁ、あああぁぁぁぁ！！」
先輩、ごめんなさい。
ごめんなさい、本当にそんなつもりなかったんだよ。
ごめん、ごめんなさい、許して。
燃えカスと化したそれを必死に集めて震える手で握って、心の中で何度も先輩に謝った。
「そんなゴミいつまでも持ってるんじゃねえよ」
冷たい、と思ったらどうやら上から水をかけられたようで。
その強い水の勢いで手の中にいたリストバンドの残骸も流れていく。
「ぁ…や、だ…やだやだやだぁ……！先輩、せんぱいたすけてよ……」
「あ？まだそんなこと言ってんの？」
再び蹴り飛ばされてしかも今度は複数人に体のあちこちを踏み付けられる。
「お前に助けなんか来ねえよ。GPSも機能しないように切ってるしこんなとこに誰も来ねえし」
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作者名：るち | 作成日時：2021年1月12日 11時
