■ ページ18
.
慧｢ん〜。まあ確かに、打っただけみたいだね｣
涼｢だからそう言ってんじゃん｣
慧｢念の為後で湿布あげるから貼るんだよ｣
涼｢へーい｣
おどけた返事をすると｢絶対だから｣と念を押された。
ぱさりと服を戻され振り返ると、知念の手首に触れて脈を測る伊野尾ちゃんの眉間にシワが寄っていた。
慧｢ちょっと脈早いなあ｣
涼｢ちぃ朝からチョコしか食べてないって｣
慧｢そうなの？低血糖かな…｣
涼｢途中顔色も悪かったから多分｣
慧｢すぐ醒めると思うけど……とりあえず部屋に連れて行こうか｣
涼｢俺連れていくよ｣
慧｢だめだめ。山田も背中打ってるんだし｣
涼｢え、でも……｣
伊野尾ちゃんのそのヒョロ腕でちぃのこと持ち上げらんの？と咄嗟に浮かび、しっかり顔に出てしまったらしい。
慧｢山田が何考えてるか手に取るように分かるの嫌だなあ〜おれこう見えて力持ちだからね？｣
まったく……とぶつぶつ文句を言う伊野尾ちゃん。
いや、まあ顔に出た俺も悪いけど十人中十人がお前には無理だろって顔すると思うんだけど……
その後｢よっこいしょ｣とおじさんくさい台詞とともにちぃを横抱きに抱き上げた伊野尾ちゃんは、ちょっとフラフラしたあと｢ほらね｣と重たい前髪に隠れた眉毛を得意げにくいっと上げた。
かなり危なっかしいと思ったことは言わないでおこう。
ちぃの部屋に着くと、どさっとちょっと雑にベッドに降ろされたちぃが｢んん｣とむずがって、ゆるゆると目を開けた。
涼｢あ…伊野尾ちゃんが雑に降ろすから｣
慧｢ええ？ごめんね知念。起こしちゃったね｣
目にかかる前髪をはらいながら情けない声で謝る伊野尾ちゃんを、ぱちぱち数回目を瞬かせたちぃがじいっと見つめ返して｢……また？｣と呟く。
心做しか顔色が悪くなっているようにも見える。
慧｢そうだね。ちょっと久しぶりかな｣
侑｢ん……ぁ、りょうすけ…｣
いつもなら起きてすぐの時も割としっかりとした意識のちぃが、ぼんやりと視線を彷徨わせていることに不安になっていると、突然目が合って名前を呼ばれる。
伊野尾ちゃんの横に膝をついて｢どうした？｣と声を掛けると、きゅっと何かを耐えるように口角をあげたちぃの目の縁にじわじわと涙が溜まっていった。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 154人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「オリジナル」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：tom | 作成日時：2022年4月3日 17時
