小春日和 2 (ページ11)

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ここ最近仕事が忙しい母さんを、俺が診てるからと無理矢理背中を押して見送ってから数時間。
あの後、侑李のかかりつけの医者に電話すると「今から行くね」と言ってくれ、ものの数十分で到着してくれた。

発熱以外に特にこれといった症状もなく、恐らく心因性のものだろうとのこと。点滴をした後、解熱剤を渡され「また何かあれば連絡してくださいね」とぽんぽんと肩を叩かれた。
あの事故以来侑李の状態が落ち着いてからお世話になっている病院の先生だ。

「はぁ……はぁ、ぅ…」

点滴をしてもらったとはいえ、心因性のもの。
原因の元を取り除かない限り体調も戻らない。
一時は下がった熱も、薬が切れてしまうとガンと上がってしまう。

苦しそうに、ぎゅっと目を閉じたまま忙しなく呼吸する侑李の傍で、じっと座っているだけしかできないのが歯がゆい。熱があまりにも高すぎるのか意識を失うことはなくても、ずっと唸っているし眠ることも出来ないようで閉じた目の端からは止めどなく涙が流れてしまっている。

「ゆうり……」

「こぅ、ちゃ……っ、こうちゃ、ん」

「うん。こうちゃんはここに居るよ」

多分前後不覚になっているんだろう、俺を求めてゆらゆらと覚束ずさまよう手を掴む。
あっついなあ……
今朝額に触れた時よりも確実に。
先生が点滴も一時的なもので気休め程度にしかならないかもしれない、と申し訳なさそうに言っていたけど。ここまでとは思わなかった。

「んーっ、ぅ、あつぃ、」

「暑い？冷えピタ変えようか」

「ぅぅ、はぁはぁ……」

カラカラに乾いた冷えピタを張り替え、蒸らしたタオルで首元や胸元の汗を脱ぐう。その間も布団を退けようとする侑李の手を抑えて、熱い手を握った。

「大丈夫。大丈夫だよ侑李。」

俺の言葉に呼応するように、弱々しく握り返される手のひら。
あの頃とは違う。
触れても、声をかけても反応がなかったあの頃とは違うんだ。

分かってるんだけど。
どうしても、重ねてしまう。重なってしまう。

「にいちゃんが代わってあげられたらなあ……」

代われるもんなら。
ふとした瞬間に思うんだ。あの時事故したのが俺で、半身不随になってしまったのが俺だったら、侑李はきっともっとたくさんのことを経験出来ただろうにと。

「……ごめんな。ゆうり、ごめん……」

「頼りないにいちゃんでごめん。」

包み込んだ侑李の小さくて暑い手を自分の額に当てて、祈るように力を込めた。
どうか、これ以上侑李を苦しめないで。

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