恋に焦がれて愛にゆく【ファンタスティックビースト】

銀行のロビー ページ9

×




銀行入口。

威圧的に大きいアトリウム。その中央の金色のカウンターのむこうで、銀行員が忙しく顧客に対応している。


ニュートが入口に駆けこんできて急停止し、問題の生き物を目で探す。ニュートの服装も態度も、立派な格好をしたニューヨーカーの中では場違いだ。


銀行員がそんなニュートを怪しんで声を掛けた。


「お客様、何かお困りですか？」


「ああ、いやちょっと……待っているだけです。」



ニュートはベンチを手で示して後ろに下がり、ジェイコブの隣に座った。


ティナが柱の陰からニュートを盗み見ている。



ジェイコブが落ち着かない様子でニュートに話しかけた。


「やあ、今日は何の用？」


しかしニュートはニフラーを見つけようと必死になっている。


「あなたと同じ……」


「パン屋を開く資金の相談に？」


ニュートは辺りをキョロキョロと見渡し、上の空の返事で

「そう」

と言った。しかしそんなニュートに気づかず、ジェイコブは応援の声をかけた。


「すごい偶然だ。 まあ、お互いにベストを尽くすしかないな」



ニュートがニフラーを発見した。今度は誰かのバッグからコインを盗もうとしている。


ジェイコブが握手しようと手を出すが、ニュートは立ち上がった。


「失礼します」


ニュートは走り去った。ベンチに大きな銀の卵が残っている。


「おい、あんた……おーい！」


ニュートには聞こえていない。何せニフラーを捕まえることで頭がいっぱいだった。


ジェイコブは卵を取り上げるが、そのとき銀行頭取のオフィスが開いて、秘書が顔を出す。

「おーい、これ！」


「コワルスキーさん、ビングリーさんがお会いになります」



ジェイコブは仕方なく卵をポケットに入れ、気を奮い立たせてオフィスに向かった。そして小声で呟いた。


「よし……よっしゃ」


気付かれないように銀行の中を探し回るニュート。ついに、女性の靴からキラキラしたバックルを盗み取っているニフラーを見つけた。


光るものがもっと欲しくて、ニフラーはすばやく走り去る。


ニフラーはカバンからカバンへ、ハンドバッグの中へとしなやかに飛び回り、盗みを働き続ける。



ニュートは見ているばかりでどうしようもしない。いや、どうしようもできなかった。







×

ビングリーのオフィス→←シティ銀行の石段

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す