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「そういや佐久間、おととい買ったネクタイどうだった?喜んでもらえた?」

あんなに嬉しそうな顔をしてたんだ。
よほど大切にしている人にあげたんだろうなと思っていたから、

「あ、・・・うん。渡せたよ」

予想に反し言いよどむような返事に思わず口をつぐむ。

あまり喜んで貰えなかったのかな。
良いモノ選んでたと思ったけど、よっぽど拘りの強い人だったのかもしれない。

これ以上話を広げるのも苦しくて、しばし無言で歩く時間が続く。


足元の影はかなり短く、夏の日差しが容赦なく照り付ける。
夏用の薄手のワイシャツを肘まで織り上げて、襟元のボタンを一つ外していても首筋を汗が伝うのがわかる。

それに対して隣を歩く佐久間は相変わらず長袖のパーカーを捲りもせず、指先がちょこんと出るくらい。
肌が弱いと言っていたけど、俺なら暑さでとっくに発狂してるだろうな。



会社までの道のりもあと10分くらい。

あ〜早く涼しい場所に戻りたいなんて考えていた時、自分よりも少し低い場所でぴょこぴょこと視界にずっと入っていたピンク色が、ふっといなくなった。

振り返ると、少し後ろで足を完全に止め、ぼーっと立ち尽くしているピンクのパーカーを着た彼。

「佐久間?どうした?」

慌てて駆け寄り、俯き加減の顔を覗き込む。
が、返事はなく、だんだんと大きな瞳がうつろになっていき、ついには身体がぐらんと大きく揺れた。

「佐久間!!」

咄嗟に支えるが、完全に脱力してしまった身体はいくら小柄とは言え支え切れず、一緒に地面にしゃがみこんでしまう。

触れた身体はパーカー越しにもかなり熱を持っている。
加えて上気して真っ赤に染まった頬。

完全に熱中症の症状だ。

「佐久間、聞こえる?ちょっとあそこの影まで動けない?」
「んっ・・・・あれ、・・・っ、阿部、ちゃ・・・・。はぁ・・・なんか、おかしいな・・・っ」

どうしよう。救急車呼ぶか?
意識はかろうじてあるようだが、どうしても動かない身体とうつろな瞳に焦りが募る。



「ねえ、どしたの」

突然、俺たちの上に影が出来たかと思うとぶっきらぼうに声をかけられた。


綺麗なミルクティー色に染まった髪。
透けるような白い肌。
右耳には金色のフープピアス。

恐らく、「会社員」と呼ばれる仕事ではないだろうな、と思しき容姿をした男性が
自身が持つ日傘を俺らに差し掛けてくれていた。

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作者名:透季 | 作成日時:2021年5月23日 17時

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