大人になった彼達は1 (ページ38)

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翌日、この騒動は予想外の人物の登場により幕を閉じる事となった。

「深澤。この決算書、役員承認がいるんだがなかなか通らなくてね。君に頼みたいんだよ。・・・言ってる意味、わかるよね？」
「・・・どういう意味でしょうか。恐縮ですが次長、わたくしの立場では交渉権などないはずですが」
「とぼけないで欲しいねぇ、深澤くん。その身体、これまでも賢く使ってきたんだろう？」
「・・・っ」

「津元次長、それはどういう意味か、私にもわかるように説明してくれるかな？」

聞き馴染みのない声に、全員の視線が一気に動く。

「・・・！なっ・・・楢沢執行役員！」

重苦しく静まり返っていた空気がざわっと動いた。

執行役員が口を開く。

「その決算書の作成者は誰かと思っていたんだが・・・君だったのか、津元次長。役員会議でも話題になっていたよ。この酷い決算書は誰が作ったんだとね」
「そっ・・・それは、その・・・」
「来てみれば、君がすべき仕事を下にやらせようとしてるじゃないか。・・・私は人事部長も兼任しているからね。優秀な人材には価値ある仕事をどんどんやってもらいたい。・・・そのような雑務さえできないようであれば、次はもう少し適した椅子を考え直そうと思うよ」
「ひっ・・・違います！すぐに私が作成し直します・・・っ」
「そうですか、では本日中に。部下に無駄口叩いている暇はありませんね」

次長は情けなくひれ伏して謝り侍。
皆、目の前で繰り広げられる急展開に口も半開き、ポカーン状態だ。

「と、いうわけで君が深澤くんかな？」
「はい、第一営業部チーフの深澤です」
「若いのに優秀だと聞いているよ。今回のコンペにもこの佐久間くんとタッグを組んでいるんだってね？佐久間くんの才能を存分に引き出してくれると期待しているよ」
「承知致しました。ありがとうございます」

ふっかが猫背気味の背筋を伸ばして深々と頭を下げる。

「じゃ、私はこれで」

パタン、と扉の閉まる音とともに静けさがフロア一体に広がる。

い・・今のは何が起きたんだ？
どうしてここに執行役員が来られるんだ、
とりあえずこの騒動は無事解決したのか・・・？

皆、頭の中にぐるぐるとハテナマークが永遠に飛んでいる。
一体どこから情報を処理していけばいいのか。

ただ一人だけ、本来なら人一倍驚いて固まっていそうな人物が、訳知り顔で安堵のため息をついたのを見逃さなかった。