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「あっ・・阿部さん・・・」
翌日、出社するなり康二が泣きついてきたのを見て、ああ・・・と何故か合致するものがあった。
嫌な予感ほど当たるものだ。
妙にひそめた声で、聞こえないとでも思っているのか。
否、全員が自分と同じ思いだ、という集団意識が自分を正当化しているのだろう。
「阿部くん、深澤くんと同期なんでしょ?どんな感じなの」
席に着くと良い歳したおっさんがニヤついた顔を隠してるつもりなのか、話かけてくる。
俺、貴方と話したことありませんよね?
「さあ?俺、今年ここに異動になったばかりなんで」
辺り障りない返事をすると、そっかそっか、ごめんね、と何に対して謝ってるのかわからない謝罪を述べヘコヘコと去っていった。
きっぱり否定しない俺だって、結局は周りと同じ人種だ。
「おはよーございまーす」
間延びした声がすると一気に静けさが広がった。
「おはよーございます!ふっかさん!」
康二がいつもと変わらずハツラツと挨拶を返す。
と、それを皮切りにパラパラと声があがり、いつも通りを装った気持ち悪い空気が生まれた。
「、?おはよー」
ふっかがそれに気づかないはずがない。
微妙な顔つきをしながら自席につくと、ふっかを避けるように妙な空間が生まれた。
「ふっかさん!今日は僕同行させてもらうんで、よろしくお願いします!」
康二だけはいつも通りふっかにすり寄っていく。
俺にはそれが、出来なかった。
噂が立ち始めてから1週間が過ぎ、2週間が過ぎ。
露骨にふっかの事を避けるヤツ、本人がいるとわかっているところで影でコソコソ噂話をするヤツ。
わざと納期を遅らせて嫌がらせするヤツ。
どんな噂が立っているのか、恐らく本人の耳にも届いているだろうに、
ふっかの態度は一切変わらなかった。
「藤岡くん、この報告書、よく出来てた。ありがとね〜」
「あっ・・・はい、」
「中野さん、こないだの対応の後処理、俺貰うから。気にしないで」
「すみません・・・」
営業にもガンガン行って、誰よりも成果を残して帰ってくる。
そんなふっかの姿に、ふっかの下についてる後輩から徐々に態度が元に戻り始めた。
これまでのふっかが得てきた信頼の賜物だと思う。
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作者名:透季 | 作成日時:2021年5月23日 17時