大人になった彼達は1 (ページ3)

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「この度、福岡支社企画演出部から異動になりました阿部亮平です。宜しくお願い致します。」

最初は第一印象が肝心。

スーツは誠実に見えるよう暗めの色をチョイスして、
だけどある程度のお洒落さは求められる業界だから嫌みにならない程度にブランドモノにして。

にっこりスマイルでペコリと頭を下げた。

「はい、藤川です。阿部くんの経歴はもう読んでるから大丈夫。ここに引き継ぎ書！50社分あるから今日中に全部頭に入れて、明日から化粧品会社のコンペ準備始めるから調査のあたりつけといてね。よろしく！」

カタタタタ、タンッ！すさまじい速さでキーボードをたたく音。

プルルルル、はい、マーケティング戦略・・・はい、はい、承知しました・・須藤くん、調査書もってきて！今すぐ！
なんて勤務開始時刻から２～３分のタイミングなのに鬼気迫る勢いで仕事をする先輩たち。

俺のにっこりスマイルは愚か、挨拶すら9割の人の耳にさえ入っていなかっただろう。

唯一、残り１割の希望だった藤川さんと名乗った30代くらいの男性でさえ、
もうとっくにコピー機を動かそうとしている。

え？そりゃ俺もこの春で入社６年目。
新入社員じゃないから異動だろうが即戦力として働かないといけないのはわかる。

だけど引継ぎ受けて一人で稼働できるようになるまでせめて３～４日くらいはもらえるものじゃないのか？

俺のこれまでいた福岡もそこそこにひどい労働環境だったけど、
これは家にすら帰れない人生が始まるのかもしれない。

「あ、阿部くんの席ここね！あと、10分から朝会でこの資料使うから会議室セッティングして並べといて！」
「はい、今すぐ！」

・・・何が今すぐだ。あと３分しかないぞ。
先輩、自転車操業すぎやしませんか？

ここだと言われた席にカバンを置き、一つ隠れてため息をついた。