こんな成長はしたくなかった ページ9
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Friendship may, and often does, grow into love, but love never subsides into friendship.
友情は愛に成長するかもしれない。だが愛が友情に落ち着くことは決してない。
イングランドの詩人、第六代バイロン男爵ジョージ・ゴードン・バイロンの名言。
五年前の、春。俺はある決意をした。それは、絶対に叶わない恋情を絶ちきって、次に向かうこと。結論から言おう。その決意は今現在燃えたぎっているだけで、一向に行動に移される気配はない。正確には行動に移そうとはしているのだが、一向に移ってくれない。
自分でも馬鹿だなと思う。相手にはもう守るべき家庭があって、素敵な旦那さんだって居て、可愛い子どもまで居て。俺なんかがずっと好きでいたところで、相手の想いがこちらに向くわけがないのに。
『蒼空……結婚、おめでとう』
ブーケをスライディングキャッチして、砂まみれのスーツ姿のまま、ウエディング姿の蒼空にやっと紡いだその言葉。あの言葉に嘘はない。心の底から、喜ばしいことだと思った。自分を卑下しがちで、我慢しがちな友人が、その全てを受け止めてくれる人と出会えて、本当に良かったと思う。
蒼空が一番綺麗な瞬間は、彼の隣に居るとき。それは否定しようのない事実。実際、福良さんの手でベールを上げられた蒼空は、この世で一番綺麗だと素直に感じた。真っ赤な唇とか、後頭部で纏められた髪とか、彼を見つめる瞳とか、全部。
『けど次は絶対っ!絶対に、俺がっ、結婚してやるからな……っ!』
だからこそ俺はあの時、そう声高々に宣言したのだ。蒼空が俺の想いに気づいていたかどうかは別として、言いたかった。俺はもう大丈夫。だから蒼空は、誰よりも幸せで居てくれ。
まぁでも、言葉とは裏腹に五年もその場でうじうじしていれば、流石に周りからも既婚者の一人や二人出てくるわけで。お陰で俺が放った次は絶対、という宣言が果たされることは無かった。
隣にデスクを構えている某スーパーのあだ名がつけられた彼も、今や既婚者である。くっそ、俺の方が恋愛歴は長いのに。
「こうちゃん、まだ結婚しないの。もう三十路じゃん」
「うるさいよ、林。ねーちょっと、なんで指輪見せつけてくんの。嫌み?嫌みなの?」
「五年前の蒼空さんの結婚式ではあんなこと言ってたのになー」
「だから、うるさいよ、林」
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