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友人はそんな私に呆れ返っているようだが、仕方ないだろう。もうすぐアラサーとは言え、今まで恋と言える恋をしてこなかったのだから。学生時代に付き合った男の子だってキス止まりで、今じゃその男の子を好きだったかどうかさえ覚えていない。
これでは、うちの社長である伊沢さんさえも馬鹿に出来ない。
周りの人達は皆、「彼を馬鹿に出来るのは恋愛面だけ」と笑っていたけど、私には笑うことさえ出来ない。だって私の恋愛偏差値、1にも満たないし。
「んんんんわかんねぇ！」
どう頑張っても恋の輪郭が覚束ない。あと少しで掴めそうな、掬いあげられそうな気はしているのに、もう少しと言うところで指の隙間をすり抜けていく。まるで砂を掴んでいる気分だ。
最近の私は考えることが多すぎる。恋についてもだし、記事についてもだし、次東京に行く時の服装もだし。
考えるのは苦手だ。いくら考えたって、私には神と崇められている河村さんのような発想は浮かんでこないし、福良さんのような破天荒な発想も浮かんでこないし、この状況を打破できる策さえ浮かんでこないのだもの。
今まで適当に生きてきたつけだろうか。ただ周りに流されるまま頷いて生きてきたつけが、今ここに回ってきているのだろうか。
―――『先生、私は大丈夫だよ』
自分を持たなかったつけが、今。
「……あぁ」
意思があるってのも、考えられるってのも、大変だなぁ。
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そして、とうとうその日はやって来た。
ホテルに備え付けられている姿見の前で最終チェックを行って、よしっと一人気合いを入れる。昨日は東京に来てからよく寝たし、髪の毛もちょっと巻いたし、コートもずっとクローゼットの奥に寝かせてた新品のだし、あとは私がちゃんとすれば大丈夫。大丈夫。変に緊張するな、私。
別に、ただクリスマスに先輩と出掛けるだけじゃないか。なにも緊張することなんてない。水族館の時は大して緊張しなかったじゃないか。何を今更。
―――『やっぱ、それ恋でしょ』
突如思い出された友人の言葉に、その場で頭を抱えて悶絶する。違うのに、どうしてもあの言葉が脳裏にちらつく。ジタバタ、ジタバタ。行き場のない緊張と戸惑いを発散するように部屋中を歩き回っていると、コートのポケットに忍ばせていたスマホが僅かに振動した。
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