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「あれ、先輩もなにか買ったんですか？」
「まぁね。折角水族館に来たのに、手ぶらで帰るのは勿体ないでしょ」
「そういうもんですかね？私は余裕で手ぶらで帰りますけど」
「えー？思い出作ろうよ」
「作ったじゃないですか。もう十分」
「そういうことじゃなくてさ、ほら、見える思い出欲しいじゃん！」
水族館を出ると、もう空は茜色に染まり始めていた。本当はもっと早く退館する予定だったのだが、あの世界に居るとつい時間を忘れてしまう。
早速俺達はAちゃんの荷物を取りに行くために、駅近くのコインロッカーに寄った。本当は今日の朝の便で帰る予定だったらしいのだが、わざわざ水族館に行く為だけに時間をずらしてくれたらしい。そろそろ空港に向かわないと間に合わないと言うので、急いでタクシーを拾い、一緒に空港に向かう。
空港まで見送りに行くのは、彼女が東京に来たときには恒例だった。誰かがそうしようと決めたわけでもないけど、なんとなく、俺がそうしたくてそうしてる。
ひょっとして迷惑だろうか。そんなこと、今まで考えてもこなかったな。まぁそれは本人に直接言われてから考えよう。
「じゃあ、先輩。今日はありがとございました。水族館、とっても楽しかったです」
「俺の方こそ、急に誘ったのに来てくれてありがとね。途中色々あったけど、楽しかった」
「お母さんにも、ちゃんとお土産渡してきます」
「うん。きっと喜ぶよ。あんだけ真剣に選んだんだもん。間違いないって」
キャリーバッグを右手に、ペンダントが入った紙袋を左手に持ったAちゃんは最後に今日一番の笑顔を浮かべると、予約した便に乗り込むため俺の方に背を向ける。
いつも、この瞬間が苦手だ。妙な虚しさがチラつく、この瞬間が。
そして今回は、よりその想いが強い。いつもより長く一緒に居たからだろうか。電話の終了ボタンをなかなか押せない気持ちにも少し似ていて、けれど、それよりも強いモヤモヤとした気持ちが、喉の奥にひっかかっている。
「―――ッ、Aちゃん！！」
咄嗟に飛び出した声に、コートを着た後ろ姿が振り返る。
本当に咄嗟だった。だから、なにも言葉を考えていない。でもここまで来て、後戻りなんて出来るわけがない。
……こうなったらもう、どうにでもなれ。
「良かったらっ、クリスマス、一緒にどっか行かない―――？」
．
．
―――一年後なんて嫌だ。恋とか好きとか、そういう明確な名前はまだ付けられてないけど……俺はもっと、君のことを知りたい。
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