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―――『お母さんが、水族館好きだったんです。だから、私は魚が好きになりました』
初めて、本当の意味で誰かが遠くに行ってしまう感覚を味わった。俺に向けて言っている筈の言葉なのに、まるで自分に向けて言っているようで。自分の中に住まう過去の自分を、必死に責め立てているようで。
Aちゃん、と名前を呼びながら、走る。時折ぶつかってしまった人に謝りながら、人の波を掻き分けて、走り続ける。どうして今、自分がこんなにも真剣になっているのか分からない。あの子は所詮ただの後輩で、ちょっと気の合う友達で、一年に一度の頻度でしか会えなくて。
でも、定期的に連絡してくれる。
下らないことをメッセージで教えてくれる。
電話をかけると、嬉しそうに出てくれる。
電話に出ると、ちょっと驚いてから笑ってくれる。
それが、嬉しい。
それだけだ。この感情に�犢イ��瓩世箸��猯��瓩世箸�、そんな大それた名前をつけなくたって。
それだけで、良いじゃないか。
―――『四年前に病気で死にました』
今のあの子を一人にしたくない。
それだけで、探す動機は十分だろ。
「―――……小森」
「そっちじゃなあい！」
「あーうるさいうるさい。Aだって。小森A」
脳裏に諦めがちらつき始めた、その時。どこからか僅かに不機嫌なAちゃんの声が聞こえてきて、辺りを見渡す。そして気づく。ここ、最初のトンネルから結構近いとこじゃん。
「Aおねーさん？」
「うんうん、そう」
声を頼りに少しだけ移動すると、すぐに探していた人物は見つかった。恐らく普段はマナーモードにしていると言っていた通り、今日も通知を知らせる僅かな振動に気づかなかったのだろう。単純な話だった。そこでやっと自分が冷静になれたのだと思った。
Aちゃんが見つかったことに肩の荷が下りて、ホッと息を吐く。本当は今すぐにでも駆け寄って説教の一つや二つしてやろうと考えていた。けれど彼女の背中に居る人物を見て、そんな考えが吹き飛んでしまう。
迷子、だろうか。優しい彼女のことだから、困っている人が居たら手を貸すとは思うが、少し不思議だった。蒼空の話だと、Aちゃんは子どもがあんまり得意じゃないって言ってたから。
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