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理不尽な苛立ちと怒りを大人げなく子どもに対して抱きながらもいつも通り感情を圧し殺して歩いていると、珍しく並列して歩いていた彼が、なにかを発見したような声をあげた。
彼の言葉にいちいち反応を示してやる必要もなかったが、隣の歩みが止まったので仕方なく私も歩みを止めて、仕方なく首の筋肉を動かして少し後ろを振り返る。
「おねーさん、これなんて読むの？」
「はぁ？どれ……」
彼が指差していたのは、私が彼と繋いでいる手の甲だった。視線の先の正体が分かって、歩みを止めるほどのことでもなかったと息を吐く。
「�狹亙媽菁擇反綢牡朖瓠�これで良いでしょ。ほら、行くよ」
手の甲にマイネームで書きなぐった文字を確認することなく読み上げ、再度彼の手を引く。が、男の子は私の手を引き戻すと、まだ質問を重ねてきた。
「おねーさんはその人、好きなの？」
「……別に、好きじゃないよ」
―――でも多分、特別な人。
一歩後ろで「とくべつってなにー？」と騒いでいる彼は無視して適当にはぐらかしながら、今度こそ歩みを再開する。特別が何かなんて、そんなの知らないよ。こっちだって、勝手に口が紡いでたんだから。
「あ、あれ海中トンネル……！」
「うわ……っ！」
「え……」
見覚えのある海中トンネルに近づいてきたところで、突然目の前を突っ走っていた小さな背中が消え去る。視線を下に向けると、うつ伏せで倒れている子どもの姿。彼が転けたことはすぐに分かった。
「……うわぁあああっ！！！」
「勝手に転んだんじゃん……！！」
でも泣くのは誤算。お前、自分の尻拭いくらい自分でしろ馬鹿。
「あーはいはいはい、あー痛かったね。うんうん。痛いのとんでけ。はいもう治った。はいもう完璧。もう痛くない痛くない。うんうんうん」
「……おんぶ」
「このガキ」
しかし、知っている道に戻ってこれた以上こいつといざこざを起こすのは不本意だ。泣きながらも自分の要求だけはしっかり伝えてくる子どものズル賢さにうんざりしながら、背中に重りを乗せて、よっこらしょういちと古いネタを脳内でかまして立ち上がる。
これは、明日は腰痛日和で確定だな。腰痛にぴったりの日なんて意味わかんないけど。そんな日一生来なくて良いけど。残念ながら明日がその日になりそうだ。
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