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―――『今だ!ウルトラスーパーミラクルビーム!ばばばばばばーん!ほら、こーへーもやって!』
俺の腕を掴む小さな手も、穢れを知らない笑顔も、真っ直ぐ俺を射ぬく瞳も、元気でよく通る声も、なにもかも拒めなかった。その全てに愛着を持ってしまって、こんなみっともない俺と真っ直ぐ向き合ってくれる彼の存在に、どこかで救われてしまっていた。
寝返りを打っても、消えてくれないあの声と顔。認めなくない。認めたくないけど。
……さっきと同じくらい、楽しかった。
「……やっぱ、馬鹿じゃん」
子どもの態度は家庭そのもの。朝陽を今日一日観察して、俺はいかに福良家が明るく幸せな家庭なのか思い知らされた。
諦める口実はいくらでも出来た。足掻くだけ時間の無駄。いや、今日まで足掻いてすらいない。ただその場で足踏みして、恰も行動しているかのように見せかけて、結局一歩もあの日から進んでいない。
大人ってなんなのだろうか。ただ真っ直ぐ道を歩いて、その先にあった壁にぶつかって、それを越えようともしないまま立ち止まっている俺より、目の前の道を拙くも一生懸命歩いている朝陽の方が、何倍も大人じゃないか。
「嫌いだわ、俺……」
早く寝てしまおう。起きていたって、永遠に終わりのないことを考え続けてしまうだけだ。明日のためだけに、寝よう。
歳は取りたくないものである。人によっては年々ポジティブになることもあるらしいが、俺は年々ネガティブになっているような気がしてならない。同時に潔くピリオドを打てない俺自身を、年々嫌いになっているような気がする。
枕に顔を埋めて、掛け布団を頭まで被る。こうなると薄々分かっていたから、朝陽とはあまり深く関わりたくなかった。後付けと言われてしまえばそこまでだけど、自分の思考くらい勝手に決めさせてほしいと思う。
≪アラームが、九時にセットされました≫
AIらしい無機質な声を遠くに、瞼を降ろす。落としたところで視界に変化は訪れない。
せめて夢くらいは、幸せなの見たいよなぁ。
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―――観察しなくたって、多分分かってたと思う。あの家庭のことは。
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