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≪え、良いんですか。水族館なんて≫
「良いんじゃない？折角貰ったんだし」
就寝前。体調がある程度回復したAちゃんは一旦予約していたホテルに向かって、その後、今日あった会議の内容を聞くために俺に電話をしてきた。
いつもならここで「丁度寝るとこだったのに！」と苦言を呈する所だが、今日は水族館の件もあったから素直に会議の内容を話して、早速「あのさ」と本題に入る。
水族館のことを話すと、電話越しの彼女の声が微かに大きくなった。驚きと、疑問と、それから、嬉しさ。その声は今まで聞いてきた声で、一番感情が乗っている気がした。
あってるかなんて本人に聞いても分からないと思うけど、それでも、俺はそんなちょっとしたことで嬉しくなっていた。
「水族館好き？」
≪好きってほどじゃないですけど……でも、魚は好きです。美味しいし≫
「……ん？」
≪え？≫
「……もしかしてAちゃん、水族館の魚美味しそうって思いながら見るタイプ？」
≪え、逆に先輩思わないんですか？あんなに脂のってそうな魚≫
いや、水族館で泳いでる魚見てまず「脂のってそう」とは思わないでしょ。ああ言うのって普段は見られない魚を実際に見てみて「すごいなぁ」「可愛いなぁ」って思うもんじゃないの。
「俺は可愛いなって思う」
≪なんて野郎だ≫
「え、そこまで言う？」
思わぬ形でAちゃんのことをまた一つ知った俺は、再度彼女に「で、どうかな？俺とで良ければ一緒に行く？」と問いかけると、暫しの沈黙が降りた。予定の確認でもしているのか、電話の向こうからはゴソゴソと物を漁る音が聞こえてくる。
沈黙はそこまで長くはなかった。俺が終わらせる必要もなく、彼女の方から「行きます」と了承の返事。可能性は低いとは思いつつ断られる可能性も考えていた俺は、安堵からそっと息を吐いた。
良かった。これでフラれてたら、「明日は午前中だけ課題して後は遊びます」とか言ってた山上に泣きつくとこだった。一人はほんっと虚しすぎるから！お願い来て！俺を救って！とか言わなきゃいけないところだった。俺の矜持は守った。
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