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「右、かな」
思い出話は良いとして、目の前の道が右から左へ時系列順になっているのなら、右から行くのが一般的だろう。自分の過去なんて蒸し返したくはないが、目が覚めない以上動いてみるしかない。ほんとに、蒸し返したくなんてないけど。
右の道を進んでいくと、やはり目の前に広がったのは、懐かしい小学校の風景だった。教室の中で無駄に大きく手を挙げている女子が、私だ。他が当てられたくないとしている中、私だけは自信満々に手を挙げている。
そうか。この頃から、私は空気が読めてなかったのか。
『じゃあ、小森さん。小森さんの将来の夢はなんですか』
『はい!がっこーのせんせーになることです!』
『あら、どうして先生になりたいの?』
『えっと、いろんな人に、べんきょーの楽しさを教えたいから!です!』
眩しい。眩しすぎる。今の荒んだ心で思い出すには、この頃の記憶は輝きすぎている。
夢も所詮私の記憶の一部だ。ということは、現実世界で思い出したことはないけれど、この眩しすぎる思い出が記憶の奥底に眠っているのだろう。是非とも今後二度と思い出すことが無いことを願うし、出来れば夢のことも綺麗さっぱり忘れて起きたいものである。
眩しさから目を背けるように教室の横を素通りしていくと、さっきの暗闇が訪れ、目の前にまたもや道が現れた。だが今度は二つ。理由と現実だ。どっちも嫌な予感しかしないが、行くしかない。
「……やっぱり、教師時代か」
現実と書かれた右の道を行くと、目の前にはしっかりと夢を叶えて職員室に自分のデスクを構えている私の姿。今よりも少し若く感じるが、大分窶れているようだ。
窓の外を見ると、すっかり日は落ちきって、時刻はもう十二時を回ろうとしていた。眠い目を擦りながら、テストの採点やら近い内にある行事に関する資料作りに追われているその姿は、確かに、幼き頃思い描いていた教師像ではない。これが現実。所詮は夢だったんだな、と厨二臭い台詞が浮かぶ。
『……帰りたい』
涙ぐんだ声で過去の私がそう呟いたのを聞きながら、職員室を後にする。
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