悶える彼氏と落ち込む彼女の攻防合戦【我妻善逸】

参拾漆ノ型 自分本位 ページ37

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接吻、された。

いや正しくは唇からズレた位置だけれど。

初めてのことで頭がついて行かなかった。





『む、無一郎くん…』


「… 僕のこと、少し意識してくれない？

それで僕のこと好きになってくれたら、次はここにするから」




そう言って、唇を指で優しく撫でるから。

免疫がない私は心臓がおかしくなりそうだった。







▽







無一郎くん。彼はただ優しい人だなと思っていた。

…… 少しだけ私と炭治郎は贔屓してる部分もあったかもしれないけれど。

それでも、そんな優しさの裏側に好意があったのは知らなかったよ。全然気づかなかったな。

無一郎くんはいつから私の事気にかけてくれたんだろうか。最初は無愛想だったのに、いつあんな柔らかい表情を見せてくれるようになったっけ。

それにしても、無一郎くんはちゃんと素直に気持ち伝えられる人なんだなあ。潔い。

……… でも仮に、もしも。無一郎くんのことを好きになったら＿＿＿＿＿




「A」


『… 炭治郎』


「すまない。待たせてしまったか？」


『全然。今来たところだよ』


「そうか。…じゃあ、行こうか」




私は何を考えているんだ。最低だ。

無一郎くんの気持ちに漬け込むところだった。

それにいまは任務。仕事なんだからしっかりしなきゃ。公私混同、ダメ絶対。

気合いを入れ直すためにばちんっと頬を叩くと、吃驚したようにこちらを見る炭治郎に、苦笑いで返した。




「…… いまは時透くんの家にいるのか？」


『え、… 私言ったっけ？』


「いや。そんな気がしたから」


『…… 炭治郎は鋭いね』


「ちゃんとご飯は食べているか？」


『うん』


「睡眠は？摂れているか？」


『ちゃんと寝てる』


「… 戻ってくる気はないか？」


『……… わかんない』


「そうか。…じゃあ仕方ないな」


『…… 無理に引き止めたりしないの？』


「そりゃ帰ってきて欲しいけれど、気持ちの整理がつかないまま戻ってきても悶々とするだけだし。
Aがしたいようにするのが一番だよ」


『炭治郎…』


「…あっ、でも俺たちはAの家に住んでるわけだから、俺たちが出ていって欲しいときはそう言ってな？」


『…… でも、家なき子じゃん』


「うっ、…それはどうにかする！」


『…… ふふ。なにそれ』




どうして私の周りの人達はこんなにも優しいんだろう。

どうしてみんな自分勝手じゃなく、人を尊重出来るのだろう。

…… 私はただ身勝手に動いてるのに。




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