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互いに無茶は禁物 ページ37










 目を開けていることすら疲れて、瞼を下ろした。
 あぁ、冷たい。フローリングというのはこんなにも気持ちの良いものだったんだな。

 別に死ぬわけじゃないのに、脳裏には走馬灯のように今までの記憶が流れていく。
 一番古い記憶から、先生に怒られた記憶、運動会でビリになった記憶、高所恐怖症で泣きながらピラミッドの上に登った記憶、初めて恋した記憶、高校の卒業式の記憶、成人式の記憶...夢の中の私は、ひどく柔らかな表情をしていた。



 やがて場面は移り変わって、初めて就職した記憶。
 今思い出しても苦い思い出ばかりだ。入社したばかりの時は謝ってばかりだった。
 今でも謝罪とはお友達だが、それとはまた少し違う。
 あの時は、本気で自分に非があるものとして、自分を責めながら心からの謝罪をしていた。









 ―――『 あぁいう部下はね、時々意味もなく叱っとかなきゃいけないんだよ 』









 部長のその台詞を聞くまでは。
 あー今思い出しても腹が立ってきた。てめーにしてきた今までの謝罪全部返せボケ。

 風邪を引いたときすら恋しいと思えない部長の脳内でぶん殴り、ついでに蹴りも入れて、卍固めをお見舞いする。このまま首の骨でも折ってやろうかしら。









 ―――『 おねーさんおかえり! 』









 だがそんな野蛮な心も、彼らを思い出してしまえば簡単に消え去る。
 残るのは、なんてことを考えていたんだろうという後悔のみ。
 ごめん、ごめんな、みんな。おねーさん、最低なこと考えちゃって、ほんと、ごめん。次からは三角絞めにしとくね。









「 ―――すがいさんあぶないっ!! 」









 誰の声だろう。分からない。だけどその声を聞いた途端、自然と目蓋があがり、右腕がなにかに向かって伸びていく。

 そして次の瞬間、掌に、ズシッと鉄球くらいの重みが増した。
 感触は、なんか、小さい人形みたいな。そんな感じ。



 ゆっくりと自分の方へ引き寄せて、掌を覗き込む。そこには、腰が抜けたように呆然とした顔で私を見上げる須貝くんの姿。









「 ……なに、してたの 」
「 す、すまほ、とろーとして…… 」
「 …………無茶しないでよ。ただでさえ、脆い存在なんだから 」









 良かった。まだあんまり状況を把握できてないけど、君を助けられたみたいだから。
 ほんとに、よか








「 待って気持ち悪い吐きそう 」
「 え、いま?!? 」








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作者名:朝田 | 作成日時:2020年12月29日 18時

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