不器用な社畜 ページ28
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仕事に関してのことは、そこまで不器用ではないと自負している。
だがそれが裁縫となれば話は別だ。
学生時代から作品の出来は良かったが、その過程がいつも不器用だった。
針の穴に糸を通すだけでも一分以上かかるし、縫い始めたらそれは悲惨悲惨。指に気を付けて縫っている筈なのに、気づけば皮膚に針が食い込んでいる。そして血がブシャーまでが一セット。
「 いっっっっっっっって!!!! 」
「 つうさんじゅっかいめだよ 」
「 須貝くん、そんなもの数えてる暇があるなら寝なさい。もう夜遅いわよ 」
「 まだひるだけど 」
大人になってもそれは変わらない。
メモを頼りに必要な材料を買い揃えてきて、さぁいよいよだと取り組み始めたのだが、須貝くんの計算通り、私は現時点で通算十回も指に針を刺している。
同じ人差し指に三回刺さっているから、生きている指はあと二本ある。
言い方を変えれば、無事な指はあと二本しかない。
裁縫してて殆どの指に絆創膏貼ってあることある?……あるんだなぁこれが。
「 おねーさん、むりしないでね 」
「 大丈夫大丈夫。これくらい慣れてっから 」
「 それになれるのはやばい 」
「 川上くんって時々毒舌だよね 」
山本くんに心配されつつ、川上くんに毒を吐かれつつ。
時々肩に伊沢くんや福良くんを乗せたりしながら作業をすること約六時間。
お昼だった外はすっかり夕焼け空に変わり、中にはお昼寝に入ってから一度も起きていない子も居た。
久々にこういう細かい作業をしたけど、まぁ、たまになら悪くない。
「 できたの、ふく 」
「 お、河村くん。うん、出来たぞ 」
みんな飽きて別のことをし始めた中、河村くんだけはずっと私の傍で作業を見続けてくれていた。
出来たと言って服を見せるけど、彼の反応は「 ふーん 」と冷めている。
寂しいねぇ。もう少し反応してくれても良いのに。
まぁ、彼の本心を知ってからは、あんまり寂しいとは感じてないけど。
「 ね、河村くんはさ、どの服が一番上手く出来てると思う? 」
「 ……なんでそれ、おれにきくの 」
「 君しか居ないからさぁ 」
「 ………………おれは、それがいいとおもう 」
そう言って彼が指差したのは、河村くん用に製作した黄色いカーディガンだった。
……やっぱさ、君ツンデレだよ。絶対。
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作者名:朝田 | 作成日時:2020年12月29日 18時