物理的距離の問題 ページ27
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「 河村くんは?どんな服が良い? 」
体育座りをしてじっと成り行きを見守っていた河村くんに話しかけると、彼はビクリと肩を震わせて、目線を逸らす。
これは、単純に嫌われているという解釈で良いのだろうか。
まぁそりゃそうだよなぁ。だって家に帰ってきてからの私ってクソニートだし、ジャージ姿にスッピンだし。男の子なら絶望しても当然か。
別に男の子の夢を壊す気は無かったのだが。
「 ……ふかしんじょうやく 」
「 ……あ!なるほどな! 」
だが、彼にそう言われてやっと別の要因であることに気づいた。
そうだったそうだった。私は彼と不可侵条約を結んでいるのだった。
互いに互いのテリトリーに必要以上に踏み込まない。それが条約内容だった筈。
ということはつまり、彼のテリトリーに踏み込み過ぎなければ対話が可能と言うことだ。
そうと決まればすぐに実行するのみだろう。
「 河村くんはー!どんなー!服が良いー?! 」
「 おねーさん、へやのすみいっちゃったな 」
「 ほら、かわむらがへんなこというから 」
「 おれのせいなの? 」
「 えー?なにー??聞こえないんだけどー?!? 」
単純に部屋の隅から語りかければ良いと思ったのだが、肝心の河村くんからの返答はない。
彼は近くに寄ってきた須貝くんと福良くんとなにかを話しているようで、残念ながら部屋の隅からそれを聞き取ることは出来なかった。
当たり前だ。ただでさえ距離がある上に、向こうは小人なのだから。
これで聞き取れたらそれこそ化けもんだろう。
「 かわむら、いいかげん、すなおになりなよ 」
「 ……、…… 」
「 お?なに?なんか言おうとしてる? 」
「 っ……あ、あんたにっ、ぜんぶまかせる……! 」
聞き取れた。今度のは確かに、ここからでも聞き取れた。
耳を澄ませていた手を退けて、河村くんの方に顔を向ける。
彼は恥ずかしがっているのか、周りの皆からの弄りを無視して、腕に顔を埋めていた。
でも残念。近づいたら普通に見えちゃったんだよな。君の耳が赤いの。
「 ……じゃあ、君は黄色いカーディガンにしよう 」
「 え…… 」
「 あれ、センス悪かった? 」
「 ……いや、べつに。かってにすれば 」
なるほどね。おねーさん、河村くんのことちょっと分かってきたよ。
君、さてはツンデレだな?
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作者名:朝田 | 作成日時:2020年12月29日 18時