【完】社畜と七人の小人【all】 (ページ21)

今日:13 hit、昨日:10 hit、合計:209,886 hit

社畜の禁煙事情ページ21

□

　最近は無かったのだが、朝から立て続けに嫌なことが続くと、時々無性に煙草を吸いたくなるときがある。

　元々私は結構なヘビースモーカーだった。
　一日で二箱以上は潰してたし、大学を卒業するまでは、殆ど喫煙室とお友達状態だった。
　やめるつもりだって、ほんとは無かった。けど。

　―――『ごほっ、ごほ……あ、すみません。ちょっと煙吸っちゃって』

　乾と付き合いを初めてから、なんとなく、申し訳なさというのが芽生え始めて。
　結局、吸い始めてから二年程で煙草はやめてしまった。

　だが今は事情が別だ……！煙草が吸いたい！どーしようもなく吸いたい！部長に対する鬱憤を煙草で晴らしたい！！くっそあの豚野郎ぜってぇいつか殺す！！！！

「あれ、先輩。どうしたんすか」
「おぉ、後輩。いやな、今どうしようもなく煙草吸いてんだわ。お前の一本くれね？」
「良いっすよ」

　フラフラした足取りで喫煙室に向かうと、丁度良く部署の後輩が煙草を嗜んでいた。
　彼から有り難くケントとライターを受け取り、フィルター部分を咥えて、火をつける体勢に入る。

　―――『おねーさんって、いーにおいすんね！』

　だがまるで私を責め立てるかのように、無邪気な笑顔が脳裏を過る。力を入れかけていた指先からも力が抜けてしまった。
　なんでこんな時に伊沢くんの笑顔を思い出してしまうんだ。
　確かに彼は私の匂いが好きだとか言ってたけど。煙草吸ったらその臭いが付くって分かってるけど！今はそんな心理状況じゃねーんだよ！

「 ……くっそが！やっぱ吸えねぇ！」
「え、折る必要ありましたッ？！」
「欲望に打ち勝つためだ。許せ後輩」

　ポッキリ折れた煙草を吸い殻入れに押し込み、喫煙室から足早に立ち去る。

　駄目だ駄目だ。他のストレス発散方法を見つけないと、あの子達を悲しませてしまう。
　悲しませるどころか、あの小さな体だ。なにが害になるか分かったものじゃない。
　もしちょっとしたニコチンが彼らにとって致命傷だったら、私は一体どう償えば良いんだ。そんなもん死ぬしかねーじゃん。

　グシャグシャグシャと髪の毛をかき混ぜながら、部署までの廊下を進む。
　帰るまでの辛抱。帰るまでの辛抱。帰ったら可愛い小人達がお出迎えしてくれるという天国が待っているのだ。なんとか帰るまで頑張れ、私。

▷