褒め褒め大作戦 ページ14
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「 やーもと、そんなとこすわってないで、こっちこいよ 」
「 やだ、こわいもん 」
「 こわくないよ。おねーさんやさしーよ 」
「 伊沢くん……君って子は…… 」
午後一時。昼食も終わり、改めて他の二人と触れ合うことにした。
先程からずっとこちらを睨み付け、手でも出そうものなら噛みついてきそうな河村君の方は、彼と仲の良さそうな福良くんに任せてみる。その間、私達は山本くんとの対話を試みることにした。
伊沢くん、須貝くん、こーちゃん、川上くんの四人が、優しく山本くんに話しかける。その様子を見ながら、私は持ってきた漢字ドリルをパラパラと眺めていた。
漢字が得意かつ好きらしいから、これを使ってこう、どうにか釣れないだろうか。
「 あーおねーさんこの漢字分かんないなぁ。なんて読むんだろー難しいなー誰か分かる人居ないかなー 」
「 ! 」
「 子供の子みたいな漢字なのに、読み方が全然予想できないなーなんて言うんだろー 」
少々わざとらしいとは思ったが、仕方ない。私は昔から生粋の大根役者なのだ。お陰で学生時代は万年裏方だ。
チラチラと山本くんの方を見ながら、わざとらしい演技を続けてみる。見た感じ、効果は抜群そう。
私が分からないと言っているのは、『孑』という字だ。
一応漢字ドリルなので最後のページに答えは載っているのだが、ここは演技に信憑性を出すために、あえて見ない。だから本当に分からない。
「 け、けつ……だと、おもう…… 」
「 え!これで『 けつ 』って読むの?!うわ分かんねー。じゃさじゃさ、アルファベットの『 Y 』みたいなやつは? 」
「 そ、それは……あ、だとおも、う…… 」
「 すっげー!山本くんは物知りだな。おねーさんビックリしちゃったよ 」
これでどうだ……!
意気込み的には必殺技を決める気持ちで、祈る。するとそんな願いが届いたのか、あんなにも怯えていた彼の表情が、微かに緩まった。ふにゃあと、可愛らしい笑顔が浮かんでいる。
これは、警戒が解けたと言って良いんじゃないでしょうか。確かめる為にちょいちょいと手招きしてあげると、あれだけ断固として動かなかった彼が、そっと近寄ってくる。
「 やっと来てくれたね 」
「 ……おねーさん、いっぱい、ほめてくれたから……その……うれしかったの 」
……水上。今だけはお前が裏垢見つけてくれたことに感謝するわ。
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作者名:朝田 | 作成日時:2020年12月29日 18時