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睡眠時間は三時間 ページ2









 社畜の朝は早い。しかし夜は遅い。
 今日も今日とて三時間睡眠を終えた私は、シャワーを浴びて睡眠を取るためだけに帰ってきているんじゃないか説が浮上している家で軽い朝食を済ませ、眠気の残った体で家を出る。


 こんな朝もすっかり習慣として体に染み付いてしまった。
 美味しい筈のコンビニ弁当もいつしか味がしなくなって、ただただ腹が満たされた感覚だけがある。







「 あー……死にて 」







 会社の歯車としてこき使われるようになってから、口癖となってしまった三文字。

 昔のキラキラ輝いていた自分が懐かしい。
 友人にも恵まれ、環境にも恵まれ、未来に希望しか抱いていなかった学生時代。
 思い出せば出すほど心が荒んでいく。



 朝日が昇ったばかりの町はいつもより閑散としていて、一度立ち止まって空を見上げてみる。
 うーん、薄暗い。前は「 今日もいい天気!頑張れ私! 」なんて自分にエールを送っていたが、そんな気力さえも最近は湧いてこない。あーあ、死にて。








「 おはざいまーす 」







 会社に着いて挨拶をするが、勿論返事は返ってこない。当たり前だ。ここの居る人は皆、今日という日は必ず定時で帰ってやると奮闘しているのだから。

 私にはもうそこまでの力はない。諦めた。どーせ帰れない。
 一番の元凶である部長は未だ出勤しておらず、おめーが七時出勤だっつったんだろうがとぶちギレそうになる怒りを仕事へ向ける。








「 ……有働さん、すみません。ちょっと良いですか 」
「 あぁ、うん。良いよ。別室行こうか 」








 一応この部署で二番目に偉い地位に居る私は、こうして話しかけられることも少なくない。
 私に話しかけてきた部下の手には、一枚の白い封筒。それだけで全てを察せられる程には、私はこの白い封筒を受け取ってきている。

 別室に行くと、早速彼は私の前に封筒を差し出して、泣きそうな声で言葉を紡いた。







「 すみません、俺、もう頑張れないです 」







 分かるよ、その気持ち。私も常々思っている。でも君は私と違って凄いな。だって辞める勇気があるんだから。
 退職届をずっと鞄に入れたままの私とは、なにもかも違う。







「 分かった。今までお疲れさん 」
「 ありがとうございます……! 」







 躊躇いもせず退職届を受けとると、今まで死んだような顔をしていた彼の表情が一番輝いた。
 あー……私も辞めてぇなぁ。








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作者名:朝田 | 作成日時:2020年12月29日 18時

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