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他のクラスメイトが来るまで、二人で時折言葉を交わしながら、それでいて静かに過ごす。

 三番手以降は、始業時間が近くなってから、数人でかたまって次々に来るのが定例なので、朝の顔といったら石井君と私くらいだ。

 朝練の終わりを知らせる鐘が鳴る。

 石井君がノートを閉じて鞄にしまう。彼は、他のクラスメイトが居る時は、絵を描かないし、あまり喋らない。ただ穏やかに、少し微笑むような表情で学生生活を過ごしている。


 とにかく、ここまではいつも通りの流れだった。
 だが、ここからがいつもと違っていた。

 練習終わりの鐘のすぐ後、忍足君が現れたのだ。


 静かな動作で他の皆より先に教室に入って来た彼は、自席について、私の方へ振り向いた。その額に、残った汗が光っている。

「おはよう、Aさん。それから石井君」

 急に、下の名前を呼ばれて、戸惑う。その呼び方は、石井君が私を呼ぶときのそれと同じだ。

 あくまで私たち二人に呼び掛ける体をとっている挨拶とは裏腹に、忍足君は石井君の方を全く見ない。

 私たちが返事をするより先に、忍足君は声を重ねた。

「先週の返事聞かせてや、Aさん」

 揶揄しているような声音と、わざとらしく意味深な言葉選びが、癪に障る。
 
 石井君は驚いているのか、やや目を大きくしているのが見えた。

「忍足君、まだ考えさして欲しい。時間くれへんかな」

 とにかくこの場を収めたくて、穏やかにやり過ごす返答を選ぶ。けれどそれは、この忍足君相手では逆効果となった。

「ええけど、その代わり、Aさんの時間もくれへん? 答えを考える余地があるってことは、チャンスあるってことやろ?」
「チャンス?」

 先週、同じようなオウム返しをした気がする。

「Aさんが頷いてくれる可能性があるっちゅうことやん。せやで、()うたり喋ったり、そういう時間をくれへんかなって思てな」
「会うたり、って……同じクラスなんやで、毎日会うやん」
「せやなぁ。ほな、喋る時間をちょうだい、って言うたらええ?」

 忍足君の微笑みが、やたら胡散臭く感じるのは、私の偏見だろうか。

 石井君はきっと誤解している。後にそれを解く術なんてないから、この場の会話で“誤解だ”と知らせたい。

 けれど私は、「分かった」と答えた。

 忍足君と私の関係を誤解されるより、石井君の目に私が嫌な女として映るのが嫌だった。
 結局私は、“ええカッコしたいだけ”なのかもしれない。

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設定タグ:テニスの王子様 , 忍足侑士 , 氷帝   
作品ジャンル:アニメ
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megumi(プロフ) - トモキさん» コメント、ありがとうございます!感情移入して頂けて嬉しいです。最近多忙を極めるため、なかなか更新出来てませんが、必ず最後まで書き続けます。 (8月28日 19時) (レス) id: e6a6c10801 (このIDを非表示/違反報告)
トモキ - 「結局のところ、これがしたいというよりも、隣に好きな人が居るということが一番大切なことだと気付く。」という言葉からすごく夢主さんの気持ちが伝わりとても感情移入してしまいました。続き楽しみに待ってます。 (8月20日 22時) (レス) @page16 id: be68aea6b3 (このIDを非表示/違反報告)
megumi(プロフ) - 桃花さん» 応援メッセージ、ありがとうございます!とても励みになります(⁠◡⁠ ⁠ω⁠ ⁠◡⁠)頑張って執筆します♪ (2023年4月20日 21時) (レス) id: c1e2bcbffd (このIDを非表示/違反報告)
桃花(プロフ) - 更新待ってます!(*^▽^*) (2023年4月20日 16時) (レス) @page1 id: 45cbc35a1c (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:megumi | 作成日時:2021年10月1日 17時

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