ビーズの指輪【忍足侑士】【テニプリ】

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デート当日、私はやたら早く目覚めていた。
　待ち合わせの時間は九時半なので、こんなに早く起きる必要はなかったけれど、とある訳があって目覚まし時計を早い時間にセットした結果だ。その理由は昨日の夜に遡る。


　昨夜、私は自室の姿見の前で、洋服や鞄を色とりどりに散らかして、途方に暮れていた。デートという経験が初めてなため、この手の準備に全く慣れていなかったのだ。

　世間の女子は初デートに何を着ていくのか、どれほど悩むのか、男子は初デートの恋人の服装に何を望むのか、そこまで考えて、ハッとして南側の壁を見つめた。

　私には大学生の兄が一人居る。そして南壁の向こうの部屋が兄の部屋だ。兄は一人暮らしをしていないので、ここから大学に通っていて、今の時間はまさにこの隣の部屋に居る。

　異性としての意見を聞いてみようか、とちょっと思ったがすぐに思い直す。もし聞きに行ったら、とんでもなく面倒なことになる。

　私の兄は、昔から今に至るまでかなりの妹バカだ。

　三つ歳上の兄は、私が外出する時は過度な心配をして、沢山の注意喚起をしたし、友達と遊ぶ時は相手がどんな子なのか、とても気にした。私の口から男の子の名前が出ようものなら、徹底的に問い詰めた。私の学校行事への応援もかかさなかった。
　私が少し落ち込んだり、小さな怪我をしたりすると、兄は私以上に悲しい顔をした。

　ある時、そんな兄の執心ぶりに痺れを切らした母が「ええ加減にしな。あんたがそんなんやったら、Aが結婚できひんやろ」と注意したところ、兄は「Aは結婚させへん！」と激昂し、その後間髪入れずに母にしばかれていた。

　そしてもう一つ、私のお弁当は東京に来てから兄が作っている。氷帝学園は、あの跡部さんのお陰でハイクオリティな学食があるのだが、それを兄は気に()食わないらしい。どんなに忙しい時であっても、兄は意地でもせっせとお弁当を作ってくれている。
　部活の合宿や友達との旅行などで兄が居ない日だけは、学食に行く。私だってたまには学食を楽しみたい。そういえば忍足君はお弁当だっけれど、いつもそうなんだろうか。

　話が逸れてしまったが、とにかくそんな兄に「デート服を見繕ってほしい」などと言ったら、兄は卒倒するか、そうでなければ家を爆破する勢いで暴れそうだ。

　相談を諦めた私は、映画での居眠りを避けるため、服選びを一旦中断し日付が回らぬうちに床に就いた。


　そして、服選び再開のための早起きだ。

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