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沢山浮かんだけれど、結局のところ、これがしたいというよりも、隣に好きな人が居るということが一番大切なことだと気付く。
でもそんな答えが求められていないのは分かり切っているので、浮かんだ中から一つ適当に選んだ。
「映画、かな」
「ほな、明後日それしよか。何が観たい? 詳しい時間とかは、明日詰めるとして、とりあえず場所は……」
あくまで自身のリズムを崩さずサラサラと話す彼の流れを、私は「忍足君」と堰き止めた。
「ん?」
「さっきの計画の話で、一個気になることがあって」
忍足君は特に気分を害した様子もなく、私の質問を待った。
「忍足君と鳴島さんも、前から仲のええ友達やったん? 今までも、さっき話しとった時も、忍足君ってあんまり鳴島さんのこと言わへんから、気になっててん。せやけど、この計画が忍足君側でも成り立つっちゅうことは、忍足君たち二人も、宍戸君と私みたいな距離感の友達なんかな、と思って」
それを受けた忍足君は、ふぅ、と一息吐いて頬杖をつく。
「……まぁ、せやなぁ」
ちょっと考え込んだ間合いが気になったけれど、きっと彼には彼なりの切ない記憶が積もるほどあるのだろう。何気なく窓ガラスの雨だれを見つめた横顔は、遠い目をしている。
「忍足君も、辛い思いしててんな」
思わずそんな言葉が唇から滑り落ちた。
すると忍足君は、すっと私の方へ視線を戻し向き直る。
私は一瞬、息が止まってしまった。だって、そこには、いつものポーカーフェイスとは全く違う、切なく眉根を寄せた、胸を切るように哀しい表情の彼が居たから。
流れゆく沈黙の隙間を埋める雨音。
けれどその
「おい、侑士! なんで、来ねぇんだよ。跡部も怒ってんぞ!」
声の主は確かめるまでもなく向日君であり、見ると彼は汗ばんだユニフォーム姿でこちらを睨んでいた。
忍足君は席を立ち、軽く手を挙げて応える。
「ああ、岳人。すまんなぁ」
「すまんな、じゃねぇっつーの!」
「はいはい、んな怒鳴らんでも行くわ」
そう飄々と受け流した後、忍足君は座っている私を申し訳なさそうに見下ろす。
「悪いなぁ、Aさん。もっと話したかってんけど」
「今日、部活やったん?」
「俺の中では休みやってんけど、勘違いやったみたいやな。けど、土曜はほんまに休みやで。ほなまた明日」
ぽんっと私の頭に手を置いてから、彼は教室を去っていった。
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megumi(プロフ) - トモキさん» コメント、ありがとうございます!感情移入して頂けて嬉しいです。最近多忙を極めるため、なかなか更新出来てませんが、必ず最後まで書き続けます。 (8月28日 19時) (レス) id: e6a6c10801 (このIDを非表示/違反報告)
トモキ - 「結局のところ、これがしたいというよりも、隣に好きな人が居るということが一番大切なことだと気付く。」という言葉からすごく夢主さんの気持ちが伝わりとても感情移入してしまいました。続き楽しみに待ってます。 (8月20日 22時) (レス) @page16 id: be68aea6b3 (このIDを非表示/違反報告)
megumi(プロフ) - 桃花さん» 応援メッセージ、ありがとうございます!とても励みになります(◡ ω ◡)頑張って執筆します♪ (2023年4月20日 21時) (レス) id: c1e2bcbffd (このIDを非表示/違反報告)
桃花(プロフ) - 更新待ってます!(*^▽^*) (2023年4月20日 16時) (レス) @page1 id: 45cbc35a1c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:megumi | 作成日時:2021年10月1日 17時