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デートはどこに行くのかと聞くと、宍戸君は得意顔になって答えた。

「前から百香がテーマパーク行きたがってたんだが、今まで忙しくてな。この誕生日に、急に連れてって、驚かしてやろうと思ってんだ」

 楽しそうに話す瞳の奥には、鳴島さんだけが映ってキラキラしている。宍戸君のこの笑顔と眼差しは鳴島さんただ一人だけのものだ。
 羨ましいと思う。心底、切ない。けれど、何を思ったところで、それらが私のものになることは絶対にないのだ。

 私は相談相手の役回りを続ける。

「その気持ちも場所もめっちゃええと思うけど、行き先のこと、ちゃんと事前に言うとかなあかんで」
「なんで。当日まで知らせねぇ方がいいんじゃないのか?」
「宍戸君に会う時の鳴島さん、きっとおしゃれな靴履いとるやろ?」
「ん? ……ああ」
「ああいう所は、めっちゃ歩くんやから華奢な靴やと辛いやん」
「そうだな」
「宍戸君のために可愛い靴履いてきて、サプライズでテーマパークやったら、足痛めてもうて、せっかくの二人の時間が楽しめへんくなるで。せやから、行き先は事前に知らせた方がええよ。服装もそれに合わせて考えられるし」
「確かに……そこまで考えてなかったぜ。激ダサだな」

 宍戸君の真剣に考える横顔を見ながら、「誕生日デート、成功するとええな」と私は小さな声援を送って微笑んだ。

 だがその瞬間、鈍器で頭を叩かれたように、忍足君の言葉がフラッシュバックする。

 “実は宍戸の近くに()れるポジション確保して、彼女よりも自分の方が優位やって思とるくせに”

 さっと体温が消え失せてゆく。

「おい、顔色悪いぞ?」

 その声で我に返った。

「……なぁ、やっぱり報酬なんか要らんわ。大したことしてへんし」

 報酬という以前と変わらぬ戯れの習慣を続けていることに、後ろ暗い企みは何も無い。けれど忍足君の言葉を思い出してしまうと、私の無意識の悪意がそこに潜んでいるのかもしれないと思えてきて、自分が嫌になった。

「急にどうしたんだよ。お前らしくねぇーぜ?」

 宍戸君が不思議そうに覗き込んで来る。
 何も言えずに黙り込んでいると、見兼ねた彼が私の左肩にポンッと手を置く。

「遠慮すんなって。明日、Aの机に届けてやっから。じゃぁな! 助かったぜ!」

 彼はそう言い残して笑顔で去っていった。

 消せない想いの置き場所も、何が正しいのかも分からない。
 左肩に残る甘さが切なすぎて、泣きそうになった。

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設定タグ:テニスの王子様 , 忍足侑士 , 氷帝   
作品ジャンル:アニメ
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megumi(プロフ) - トモキさん» コメント、ありがとうございます!感情移入して頂けて嬉しいです。最近多忙を極めるため、なかなか更新出来てませんが、必ず最後まで書き続けます。 (8月28日 19時) (レス) id: e6a6c10801 (このIDを非表示/違反報告)
トモキ - 「結局のところ、これがしたいというよりも、隣に好きな人が居るということが一番大切なことだと気付く。」という言葉からすごく夢主さんの気持ちが伝わりとても感情移入してしまいました。続き楽しみに待ってます。 (8月20日 22時) (レス) @page16 id: be68aea6b3 (このIDを非表示/違反報告)
megumi(プロフ) - 桃花さん» 応援メッセージ、ありがとうございます!とても励みになります(⁠◡⁠ ⁠ω⁠ ⁠◡⁠)頑張って執筆します♪ (2023年4月20日 21時) (レス) id: c1e2bcbffd (このIDを非表示/違反報告)
桃花(プロフ) - 更新待ってます!(*^▽^*) (2023年4月20日 16時) (レス) @page1 id: 45cbc35a1c (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:megumi | 作成日時:2021年10月1日 17時

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