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その年の秋のある日、どういう流れでそうなったのかは思い出せないが、宍戸君と私は教室で隣り合い、好きなタイプという話題に花を咲かせていた。
「私のタイプは、一生懸命な人、やなぁ」
「そんな奴、山程居るじゃねーか」
「ただ単に頑張っとるだけの人とちゃうで。一つのことに、ひたむきに努力しとる人のことを言うてんねん」
「へぇー」
ほのかに私の恋心を焚きしめた決死の答えだったのに、彼はなんてことない顔で頬杖をついていた。
悔しくなり、ムキになって宍戸君を問い詰める。
「なぁ! ほな、宍戸君はどういうタイプの子が好きなん?」
内心はとても臆病で、心臓が物凄い音をたてていた。
「俺か? うーん、そう言われると難しいな」
彼はちょっと考え込んだ後、たまたま黒板横の掲示板に貼ってあった火の用心のポスターを指さした。
「あんな風に、ショートが似合うボーイッシュな子だな」
そこには最近人気の若手女優が載っていた。少し生意気な
キャラが売りの、活発でたくさん笑う人だ。
確かに、宍戸君の隣によく似合うタイプだと思った。
よってその一ヶ月後、私は髪の毛を思いっきり切ったのだった。
そんな私を見た宍戸君は「よく似合ってんじゃねーか」と笑い、私の軽くなった頭にくしゃっと触れた。
ふわっと地面から浮いてしまうくらい、幸せだった。二人の距離が、五秒前よりもずっと近くなった気がした。
それなのに、ある日彼が私にこっそり打ち明けたのは、他の子への切ない片想いだった。
『鳴島百香』――名は体を表すというのは、この子のことだと思う。可憐で優しくて、百の美しい香りを身につけているような姿。
私とは正反対で、到底敵わない女の子。
ボーイッシュな子がタイプだと言ったくせに、全然違うじゃないか、とやり場のない悔しさを飲み下した。彼の一番近くに居たのは自分のはずなのにどうして、というわがままな哀しみを作り笑いの下に隠した。
そして私はこの日、人生で初めて夜を泣き明かした。
高校二年生の今、記憶はまだ、乾ききらずに残っている。
あの後、髪を伸ばすなんて、とても惨めで出来なかった。結局今に至るまでショートヘアが続いている。
髪型だけでなく、早朝に登校する習慣が抜けないのも、宍戸君と鳴島さんを見るのが辛いのも、その全てが、私が未だに恋の真ん中から抜け出せていない証拠だろう。
忍足君に鼻で笑われてしまいそうな事実だ。
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megumi(プロフ) - トモキさん» コメント、ありがとうございます!感情移入して頂けて嬉しいです。最近多忙を極めるため、なかなか更新出来てませんが、必ず最後まで書き続けます。 (8月28日 19時) (レス) id: e6a6c10801 (このIDを非表示/違反報告)
トモキ - 「結局のところ、これがしたいというよりも、隣に好きな人が居るということが一番大切なことだと気付く。」という言葉からすごく夢主さんの気持ちが伝わりとても感情移入してしまいました。続き楽しみに待ってます。 (8月20日 22時) (レス) @page16 id: be68aea6b3 (このIDを非表示/違反報告)
megumi(プロフ) - 桃花さん» 応援メッセージ、ありがとうございます!とても励みになります(◡ ω ◡)頑張って執筆します♪ (2023年4月20日 21時) (レス) id: c1e2bcbffd (このIDを非表示/違反報告)
桃花(プロフ) - 更新待ってます!(*^▽^*) (2023年4月20日 16時) (レス) @page1 id: 45cbc35a1c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:megumi | 作成日時:2021年10月1日 17時