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気象予報が「今日は真冬日になりそうです」と告げたから、私は赤いコートを羽織って玄関を出た。
朝七時の、マンション三階の廊下に北風が吹き抜ける。
赤は嫌いだった。特にこのコートのような、鮮やかな赤は。理由は、明確に言えないけれど、本当に大嫌いだった。
それでも私がこの色を選ぶようになったのは、
「Aちゃんは赤がよう似合う」
あの人がそう言ったからだ。
自分でも驚くほど単純に出来上がっていた私は、彼がそう言ったあの日から、敢えてこの色を選ぶようになった。
あれから八年も経つのに、今も変わらずに赤色を選んでしまう。
馬鹿だと思う。分かっているのに、何も変われないし、何も捨てられない。
私を真っ直ぐ見ていた彼の眼差し、言葉、仕草、優しさ、ニヒルの隙間から覗いた微笑み、合わせてくれた歩幅、そして言えなかった気持ちも、取りこぼさず抱いて生きている。
私は何を望んでいるのだろう。自ら手放したくせに、待っているとでもいうのだろうか。
何かを振り切るように、マンションの階段を駆け下りる。
習慣的な運動なんて、社会人になって以来全くしていない私は、それだけで息が切れた。
大きな呼吸で空を仰げば、奇跡的な蒼さと眩しさが瞳に飛び込んで、すぅっと目を細める。
雲一つ無い青空は、私の身勝手な後悔を責めているようだった。
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megumi(プロフ) - トモキさん» コメント、ありがとうございます!感情移入して頂けて嬉しいです。最近多忙を極めるため、なかなか更新出来てませんが、必ず最後まで書き続けます。 (8月28日 19時) (レス) id: e6a6c10801 (このIDを非表示/違反報告)
トモキ - 「結局のところ、これがしたいというよりも、隣に好きな人が居るということが一番大切なことだと気付く。」という言葉からすごく夢主さんの気持ちが伝わりとても感情移入してしまいました。続き楽しみに待ってます。 (8月20日 22時) (レス) @page16 id: be68aea6b3 (このIDを非表示/違反報告)
megumi(プロフ) - 桃花さん» 応援メッセージ、ありがとうございます!とても励みになります(◡ ω ◡)頑張って執筆します♪ (2023年4月20日 21時) (レス) id: c1e2bcbffd (このIDを非表示/違反報告)
桃花(プロフ) - 更新待ってます!(*^▽^*) (2023年4月20日 16時) (レス) @page1 id: 45cbc35a1c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:megumi | 作成日時:2021年10月1日 17時