水面と瞳 ページ41
その日の午前中のとある休み時間、Aが廊下に並ぶロッカーから資料集を出していると、怒涛のような騒々しい足音がすぐ際まで押し寄せ急に止まった。訳の分からぬ勢いに彼女は思わず肩を震わせる。
廊下で気ままに談笑していた生徒たちは、圧倒されて一瞬息を呑み、驚きと興味本位の視線を二人に投げる。
Aは恐る恐る首を向けようとしたが、今度は大きな声によって耳横の空気が割れんばかりに揺らされたので、更に肩をすくめた。
「A！ 復活したんやったら連絡くらいくれてもええやんか」
その声は先程の足音の凄まじさの名残を残していた。主は謙也である。
彼であると頭が認識するより僅かに先んじて、Aの心は反応していた。驚きではない心拍の速まりが皮膚に伝わっている。
まるで彼女の胸の奥には、謙也にだけ敏感な部分が存在しているようだ。その水面に彼の気配が落とされると、波紋が広がるように急速に熱を上げるのである。
漸く彼の方を見上げる。しかし目が合った途端にぐんと心臓から何かが突き上がる感覚に襲われ、彼女の目線は慌ただしく泳いでしまった。居たたまれなくならない内に、散らかる言葉を拾って繋げた。
「あ、ご、ごめん。わざわざ言うことでもあらへんかと思て」
Aが言葉を発したことでそれまでの固まった空気が心なしか和み、周囲の観衆はまた元通りの談笑に帰っていった。
だが、ここに居る二人の空気は和むどころか、彼女の行き当たりばったりの答え方のせいで謙也をより怒らせてしまったようだ。
Aの肩に謙也の片手が、やや痛みを伴う程の強さで乗った。
「言うことやわ！ 人がどんだけ心配した思てんねん」
明らかに不機嫌さを含んだ彼の声。本来なら怯えたり萎縮したりするのかもしれないが、Aの体を満たしたのは言葉で形容し難い温かさだった。指が落ち着かない。意識がふわりとして、思わず謙也を見据える。そうしてそのまま唇から紡ぎ出されたのは「ありがとう」という一言で、頬は可笑しいくらいに緩んで熱かった。
Aの瞳に真っ直ぐ映った謙也の瞳は、ほんの数秒間止まり、そして揺らめき、最後には逸れていった。
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じゃこ(プロフ) - お返事ありがとうございます！！もっと言葉にできれば良かったのですが、、そう言ってもらえて嬉しいです。はい、もちろんです！楽しみにしています！！！！陰ながら応援させていただきます。 (2020年4月24日 23時) (
レス) id: d1fadf4aa0 (このIDを非表示/違反報告)
megumi(プロフ) - じゃこさん» こちらこそ、いつもお読み頂きありがとうございます！加えてとっても素敵なコメントに感激いたしました！未熟な私ですが、じゃこさんに幸せを与えることができたなんて…作者冥利につきます。これからも更新頑張らせて頂きますので、お付き合い願えたら嬉しいです。 (2020年4月24日 9時) (レス) id: 5c141d606b (このIDを非表示/違反報告)
じゃこ(プロフ) - 更新いつもありがとうございます！上手く言葉にできないのですが、とても綺麗な文で読むと幸せな気持ちになります。四天宝寺のこと夢主ちゃんが織りなす話を楽しみにしてますこれからも頑張って下さい！…初コメ失礼しました。 (2020年4月24日 0時) (レス) id: d1fadf4aa0 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：megumi | 作成日時：2020年2月2日 21時
