鞄と謙也 ページ34
小石川は保健室を出て教室へと早足で向かっていた。
「ごめん」――Aの一言とその時の彼女の表情が、彼の脳裏で鮮明に繰り返されている。
先週末から言いそびれたままのことを本当は覚えている。正直、もう気持ちを抱えきれなくなっていた彼は、ちゃんと打ち明けようとしていたのだ。
試合前日の先週金曜日、渦巻く焦燥に押されて彼女の手を握り「好き」と言ってしまった。何とか誤魔化したが、そこからもう抑えが利きづらくなった。一旦口に出してしまうと伝えたい衝動が後から後から湧き出てしまいどうしようもなくて、あの瞬間に誤魔化さず素直に全てぶつけてしまえば良かったと悶えた。
けれど、試合当日は小石川以外に二人が来てしまったし、今週は今日に至るまで勇気が出なかった。一人で考える時は伝えたい気持ちが勝つのに、いざAを目の前にすると臆病さが勝つのだ。
そして好きな相手から、何の話だったのか、と聞かれるほど言いにくいことはない。まして彼女は熱で倒れてしまっている。もっとちゃんとした場所で、はっきり届くように言いたい。
果たして伝えられるだろうか、と考えながら小石川は教室に着いた。
Aの鞄を持ちながら再度保健室へ急ぐ。階段から一階に下りたその時、本当に偶然、謙也とばったり会った。一階の廊下から走ってきた彼は放送室からの帰りだった。
「お？ 小石川、鞄なんか持ってどないしたん？」
会いたくない相手であった。この頃、Aのことを考えると、頭の中で必ず謙也が邪魔をしていた。それに今は彼女の鞄を持って彼女の所へ行く途中で、更に間が悪い。
小石川は適当にあしらって逃げようと思ったが、そうはいかなかった。
謙也は立ち去らずに、じっと考えてからこう言ったからだ。
「その鞄、どっかで見た気する……あ、Aのや！」
何故分かるのか、などと小石川の頭は混乱したが、彼女の鞄と知られたなら理由を言わない訳にもいかない。
「早退すんねん。熱あってな」
それだけ答えて足を進めようとしたが、またも阻まれた。
「ええ！ 大丈夫なんか？ 俺も行くわ」
小石川は嫌という気持ちを必死で隠し、承諾した。
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じゃこ(プロフ) - お返事ありがとうございます！！もっと言葉にできれば良かったのですが、、そう言ってもらえて嬉しいです。はい、もちろんです！楽しみにしています！！！！陰ながら応援させていただきます。 (2020年4月24日 23時) (
レス) id: d1fadf4aa0 (このIDを非表示/違反報告)
megumi(プロフ) - じゃこさん» こちらこそ、いつもお読み頂きありがとうございます！加えてとっても素敵なコメントに感激いたしました！未熟な私ですが、じゃこさんに幸せを与えることができたなんて…作者冥利につきます。これからも更新頑張らせて頂きますので、お付き合い願えたら嬉しいです。 (2020年4月24日 9時) (レス) id: 5c141d606b (このIDを非表示/違反報告)
じゃこ(プロフ) - 更新いつもありがとうございます！上手く言葉にできないのですが、とても綺麗な文で読むと幸せな気持ちになります。四天宝寺のこと夢主ちゃんが織りなす話を楽しみにしてますこれからも頑張って下さい！…初コメ失礼しました。 (2020年4月24日 0時) (レス) id: d1fadf4aa0 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：megumi | 作成日時：2020年2月2日 21時
