先生の相談室 ページ22
ぼんやりとした視界の端に紫子が映り、そこでAは気を持ち直して顔を上げた。
先生の言った昨日の言葉を忘れられるはずもない。彼女の胸の奥深くに刻まれているのだから。
「『恋は生きる意味』ですよね」
Aが視線を合わせて答えれば、紫子は「うん」と頷き笑った。目を合わせて見せる先生の笑顔はいつもの綺麗なそれで、やはり少女は見とれてしまうのだった。
わぁ、とコートからの歓声がたえず空気を震わせて二人の所まで届く。四天宝寺は順調に得点を重ねているらしい。
そんな歓声の背景音楽を鋭く切るように、パチンとAの目の前で手を合わせる音が割れた。紫子が始まりの合図のように手を叩いたのである。そして明るくひょうきんな調子で先生は言った。
「さぁ、臨時相談室です！ Aちゃんのお悩みをどうぞ」
突然のことにAが戸惑いを隠せず、「えっと」などと声を適当に並べながら視線をあちらこちらに散らしていると、紫子は自身の持っていたお茶のペットボトルをマイクに見立てて口元に押し出してきた。けれどそれから先生は無理に聞き出すわけでもなく、ただ待ってくれていた。
休憩に従った時は胸の内を打ち明けるつもりなど頭になかったが、あえて冗談ぽくしてくれたのであろう先生の問いかけに誘われ、Aはこの痛みを話してしまいたくなった。
「好きな人がとても遠くて辛いんです」
言葉にすれば心は痛みを蘇らせて、つられるように目線が斜め下に向かう。情けない涙が出そうだ。Aはそんな自分が幼稚に思えて仕方ない。
だが、一度出始めた心の叫びは止まらず、零れ続ける。
「関われた時は嬉しくて、それがどんな些細なことでも幸せに感じるんです。でも、ふと、自分とは生きる世界が違っていて本当は遠いんだ、って急に現実に引き戻されるんです」
口に出すほどAの涙腺に限界が近付くけれど、同時にこんなことを先生に嘆いていることに対する自己嫌悪も募る。感情を制御できない自分が嫌だった。先生にも笑われてしまいそうだと怖くなった。
しかし返って来た声は、驚くほど重みをなしていた。
「そうね。でも、それほど好きってことなのよ、きっと」
紫子の目は遠くを見ていた。
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じゃこ(プロフ) - お返事ありがとうございます！！もっと言葉にできれば良かったのですが、、そう言ってもらえて嬉しいです。はい、もちろんです！楽しみにしています！！！！陰ながら応援させていただきます。 (2020年4月24日 23時) (
レス) id: d1fadf4aa0 (このIDを非表示/違反報告)
megumi(プロフ) - じゃこさん» こちらこそ、いつもお読み頂きありがとうございます！加えてとっても素敵なコメントに感激いたしました！未熟な私ですが、じゃこさんに幸せを与えることができたなんて…作者冥利につきます。これからも更新頑張らせて頂きますので、お付き合い願えたら嬉しいです。 (2020年4月24日 9時) (レス) id: 5c141d606b (このIDを非表示/違反報告)
じゃこ(プロフ) - 更新いつもありがとうございます！上手く言葉にできないのですが、とても綺麗な文で読むと幸せな気持ちになります。四天宝寺のこと夢主ちゃんが織りなす話を楽しみにしてますこれからも頑張って下さい！…初コメ失礼しました。 (2020年4月24日 0時) (レス) id: d1fadf4aa0 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：megumi | 作成日時：2020年2月2日 21時
