緊迫の時間 ページ21
今なら逃げられるだろう。
それなのに、体が言うことを聞かない。
あまりにも自分が情けなくて、哀しくて、そして寂しくて。
沈黙を破ったのは隆だった。
「電話……でなくて、いいのか……?」
もう何コール目だろう。いや、何回目の着信だろう。切れたと思っても、また少ししてから鳴る。出るまで鳴らし続ける気だろうか。
痺れを切らして私は重たい体を少しずらし、床に置いたバッグからそれを引きずり出した。
「この番号……。」
虚ろな目を画面に向ければ、隆が再会の電話をかけてきた時のもう一つの不在着信。
あれから頭の片隅にずっとこびりついていたもの。
二回目の今日は、こんなにもしつこい。
出るべきか、出ないべきか、今の私には判断ができない。
隣の彼が何事かと画面を覗いた瞬間、その表情が固まった。
「お前……、この番号とどんな関係なんだ。」
彼は氷のように冷たい眼差しで、戸惑いと疑惑の声を私に向ける。
思わず身震いし、誰なのかすら分からない、と途切れ途切れに答えた。
本当なのかと疑う彼。どうしてそこまで問い詰めるのか分からない。
その間もずっと着信音は鳴り響いていた。
しばしの沈黙の後、彼が口を開き伝えた。
「それは、広樹さんの奥さんの朝倉恵美さんの番号だ。」
「う、うそでしょ!? 何で知ってるの!?」
嫌な予感ほどよく当たるとは本当だった。
「本当だ。というか何でそんなに驚くんだ。」
隆こそ、番号を見ただけで分かるなんて、どういう関係なんだろうか。
「とにかく出たらどうだ? おい、大丈夫か?」
全身の血の気が引き顔面蒼白のわたしを見て、彼は目を丸くした。
心臓が握りつぶされるかのような緊張が走る。体が小刻みに震える。
「怖い」
絞りだした声は消え入りそうだった。
「こんなにも鳴り続けてんだから、出た方がいい。」
あまりにも真面目な声色で彼が言うので、私はついに従った。
ゴクッと大きく唾液を飲み込み、腹をくくった。
「も、もしもし……?」
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megumi(プロフ) - いなすらさん» ありがとうございます!ご期待に沿えるよう、頑張って執筆します(^^) (2019年5月22日 18時) (レス) id: 04e98a2c19 (このIDを非表示/違反報告)
いなすら(プロフ) - めぐみさん» 誤字でしたか(笑)大丈夫ですよ!続き楽しみにしております((。´・ω・)。´_ _))ペコリン (2019年5月22日 17時) (レス) id: 4bc43cc691 (このIDを非表示/違反報告)
めぐみ(プロフ) - いなすらさん» いなすらさん、ご指摘ありがとうございます!誤字です、申し訳ありません。すぐに訂正いたしますm(__)m (2019年5月22日 17時) (レス) id: a2b7118433 (このIDを非表示/違反報告)
いなすら(プロフ) - 作品名、幸せだからいになっていますが、誤字でしょうか?意図的なものではないと思いますが、そうだったらすみませんm(*_ _)m (2019年5月22日 15時) (レス) id: 4bc43cc691 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:megumi | 作成日時:2019年5月21日 5時